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香蘭学園
9
味気なくとも今は仕方ない。記憶を失い、寝ている時にだけこうしてキスができる。

「……藍、……。」

愛しさは募っていく。抱きしめてキスをして、お互いに確かめ合って――。

それも出来ない。

昨日起きた時のことに浬は多少なりショックを受けていた。

藍の一番近くにいたはずが、別の男の名前を開口一番に出されたこと。そして自分を忘れてしまったこと。

「……んっ。」

藍が寝返りを打つと肌けたシャツの隙間から桜色の突起が見え隠れする。
衝動的に、でも起こさないように一つ一つボタンを外しそこに唇を寄せ舌で舐めとっていた。

唇で挟んで軽く歯を立てる。それを繰り返せば硬く尖り反応を見せた。

「……ぁ、……。」

小さく声が藍の口から漏れる。それが浬を嬉しくもあり、悲しくもさせる。

肌開たシャツを元に戻し何事もなかったのように藍の頬に触れるだけのキスをした。

藍の幸福を願うのなら、今のまま記憶を戻さなくてもいいと。

それは浬が見せ掛けの表向きの為に繕った感情。

腹の中では違う。

守れなかったことに対してのただの言い訳だ。
藍を守るといったことに背反した酬いが今この状況なのだとしたら、この先どちらに転んでもいずれケリをつけなくてはいけなくなるだろう。

浬は苦渋に満ちた表情で藍を見つめていた。

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