香蘭学園
8
アイスティーに忍ばせた顆粒は無味無臭。それを寮から浬が出て行く前に藍に飲ませたので当分は夢の中だ。
「……ま、オマエがついてりゃどーにかなるだろ。」
「……あぁ。」
浬にしては茫洋に満ちた空返事を返し、浬を除く三人は三者三様の面持ちだった。
*****
何だっけ…。
忘れてはいけないようなことを忘れているような気がする。
夢うつつの中、足元はフワフワ浮いているような感覚に何かを思い出そうと俺は歩いた。
靴はない。裸足で一歩一歩踏み出すが果てしなく広いその場所は歩き疲れてしまいそうだ。
「―――あ…い。」
誰かに呼ばれた気がして振り向くが誰もいない。
でも――、この匂いはしっている気がした。
包み込むような優しい匂いに…。
浬が帰ってくると規則正しい寝息を立てて藍が寝ていた。
「……。」
ベッドの端で体を丸め痛々しい傷痕を庇うように眠るのは無意識なのだろうか。
浬は藍を起こさないようにそっと毛布を掛け、ベッド脇に眠る藍の安らかな寝顔を覗き込んだ。
「……愛してるよ。」
シーツに乱れた藍の髪を撫でくちづける。
夢を見ているのか時々唇が動く。浬はそっと唇をそこに重ねてみた。
舌で唇を割り、歯列をなぞるが反応はない。
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