香蘭学園
12
いつ切り出そうかと様子を伺い見るが先輩であるため年下がなにか言うのも差し出がましい様で気が引ける。
「あ、あの…。」
「咽渇いたよね?何か飲み物でも買いに行こうか?」
朔夜が言いかけた瞬間、言葉尻を遮られていた。
「あ、……はい。」
椎名の気持ちを知っているからこそ何か構えてしまっている部分がある。
それでもきっぱり断りきれないでいることに罪悪感を覚えていた。
「文化祭ももう終盤だね。…あ、もう戻らなきゃかな?」
「あ、…そうですね。」
チラリと腕時計をみれば結構な時間。
椎名が寂しそうに笑顔を投げ掛けてくるといたたまれない気分になる。
空き教室の前を通り過ぎ、Sクラスへ戻ろうとしたその時―――。
僅かな隙間からよく見覚えのある金髪が視界に入った。
夕暮れによく映えるその髪色は見紛うわけがない。
結っていた髪がパラリと解け、そして長く延びた黒い影が二つ、ゆっくり重なっていく。
「!?」
「どうしたの?」
「いや、何でもないです。…何でも…。」
「そう、じゃあ早く戻ろうか。」
「はい。」
教室に戻ると窓際の席へ椎名を座らせ注文を取る。
濃いめのエスプレッソを椎名の目前へ置く指先は微かに震えカタカタとその振動がソーサーやカップにも伝わった。
それは止まることを知らない。
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