香蘭学園 28 「無事で…よかった。」 洋服越しにも浬の暖かさが伝わってくる。 「浬…心配かけて…ごめんね…。」 腕が離れ、両肩を掴まれると隠すように浬の後ろへ回された。 「テメー、藍に何したんだよ!…ざけんな。」 暢気にタバコを吸い出し、傍観していた鴇崎に怒りをあらわにした浬が鴇崎の襟元に掴み掛かった。 二人とも背丈があるのでその迫力は相当なものだ。 「テメーの私物なら、ちゃんと首輪でも綱でもつけて面倒見とけよ。クソガキが!」 鴇崎は微動だにしないで冷たく言い放つ。 浬に掴み掛かられても平然と表情一つ変えずに鼻先であしらっていた。 「…ッ、何だと!」 逆鱗に触れたのか、浬の掴む手に力が入る。 「浬ツ、やめ…て!」 「アハハ、彼氏登場で飛んだ飛ばちりかよ。俺は帰るから、じゃぁな。上手くやれよ!」 慌てて藍が仲裁に入ると浬の腕が緩む。鴇崎がその隙をついて車に乗り込んだ。 鴇崎は颯爽と車を発進させ、見えなくなる。 今までの騒ぎが一気に納まると何も無かったように雨だけがシトシトと降り続く。 藍は無言のままで去って行く赤く棚引くテールランプを立ち尽くし見送っていた。 「藍…、アイツ…誰?」 「え…。」 何と説明すれば迷う。 決して悪い人ではなかったし、かといってフォローすれば浬の機嫌を損ねてしまいそうで恐い。 [*前へ][次へ#] |