香蘭学園
1
サヨナラ…サヨナラ。
また会う日まで。
夜なのに電気も点けず、真っ暗な部屋のベッド脇で膝を抱えた。
右手には銀色のナイフ。
手が震える。
耳なりが一段と大きくなって囃し立てていく。
部屋には一人しかいない。なのに、誰かがどこかで囁く。
『邪魔だよ。』
『何でいるの。』
『一緒に…逝けばいいのに』
目をつぶると、黒い影が現れた。実態はないのに、作り出される幻は妙にリアルだ。
市街地を走る車が通り過ぎると、意を決して刃先を腕に充てた。
ポタポタ花びらが散るように落ちていく液体は生暖かい。床に血溜まりが出来ていく。
腕から夥しい赤い液体が幾筋もこぼれ落ち、床を染めた。
「どして…。」
泣いている。
あんなにあの日泣いたにも関わらずとめどなく溢れ出す涙は乾かない。
先日、葬儀が行われていた。
喪服姿の人並みの列の先頭に望田藍(もちだ・あい)の姿が軽く会釈をする。
何も言葉が出ないまま、泣きそうになる自分を抑え、ただ機械の様にそればかりを繰り返していた。
両親が揃って他界した日。肉体が骨になる日。有から無になる日に笑顔なんてまだ作れる年齢じゃない。
現実を受け止めるにはまだ時間が掛かりそうだ。
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