香蘭学園
15
暖かい生活、何不自由に暮らせることが約束されたようなものだ。
「あ、私ったら…おやつ、たべるわよね。待ってて。」
いそいそと階段を降りていく。
その間、日狩は新しい部屋の詮索を始めていた。
出窓からの景色は高級住宅街を一望出来、遠くに東京スカイツリーが顔を見せる。
「…?」
窓枠に隠れるように鎮座した色あせたティディベアを見つけ不思議に思った。
他のものは全て新品なのにこれだけは使い込まれたようにクタクタしている。
脳裏に忘れかけていた記憶が巻き戻された。
「朔…夜…。」
咄嗟に名前を呼んだ。
かといって会えるわけでもない。
引っ越し当日――
「これ、欲しいの?」
「ウン。だって…僕の無くなっちゃったんだもん。」
両親にペアで買ってもらったぬいぐるみのクマ。
いつも朔夜が抱き抱えてある日、無くなったものだ。
「朔ちゃんに僕のあげる。」
笑ってた時期が被る。
「日狩、おやつ持ってきたわよ。…どうしたの?」
「なんで…これが?」
日狩が色あせたぬいぐるみを手に取った。
「あら、いやだ。昔アレックスって大型犬を飼ってたのだけど…あの子、どこからもってきちゃって。それからずっとあるの。」
苦笑いしながら日狩を撫でる。
「…私達は、子供に恵まれないから、…でもね、去年亡くなってしまって。」
悲しそうに溜息を一つ付くと、ケーキの乗ったお盆をテーブルに下ろした。
―――近い。
そう確信した。
犬がこれをくわて持ってきたとしたら、朔夜の住んでいる場所もそう遠くないはずだ。
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