香蘭学園
13
それは日狩だけではない。ここにいる小児科病棟全員が聞き耳を立てた。
「…あと…号室…サン、医療費払えなくて逃げちゃったらしいよ。」
「…へぇ。知らなかったわ…アハハ…。」
次々と院内の内部暴露話もナース達にしては日常茶飯事なのかもしれない。
「…やっぱね。」
日狩は確信した。
一縷の望みを賭けてみたわけではないが、母親が迎えに来ることはなかった。
「ヒカル君、実は整った顔してたのね。イイ男じゃん。将来が楽しみだわ。」
数日経った朝、日狩のいる病室を担当しているいつもの看護士が体を拭きながら笑いかけた。
「別に…。そんなんわかんないし…。」
安心して眠れる場所、暖かいご飯。困ることなど一切無い。
「…言いにくいんだけどね。」
日狩が照れ笑いすると、急に看護士が神妙な顔付きで話し掛ける。
「何?」
「実はね、ヒカル君のお母さん、…チョット生活が苦しいみたいで…。新しいお母さんが見つかるまで隣町にある施設に移るのね…。」
言葉を濁しながら語りかけるが、要は母親は日狩を手放したといった内容だった。
「ふーん。アハハ別に…いいよ。」
俯きかけた瞳は全てを諦めたそれで、日狩は快く快諾していた。
また一から始まることに何も動じることはない。
静かに頷いた。
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