香蘭学園
12
「ごちそうさま…でした。」
「ん、食べたの?エライエライ。で、名前は?」
わしゃわしゃ撫でてくる手を振り払い、日狩がうざそうに看護士を見上げる。
「日狩。…榎本日狩。」
「へー、ヒカル君ね。で…?どっから来たの?って…いいたくないか?体、…痣とかヤケドの跡とか新しいし、まぁイイワ。」
嘘をまたついた。
もう、榎本の姓ではない。あの男の姓は名乗りたくなくて、旧姓を名乗った。
そうすることでまだ、兄と繋がりが持てるような気がしたからだ。
「……。」
無言で何も乗っていない食器を見つめると、滴が零れていく。
「あらら、…ま、ここにはアンタを虐めるようなやつはいないから安心してちょうだい。」
優しさが溢れている。
抱きしめられる腕は暖かく、居心地がいい。
母親と同じ女性なのにこうも違う。
誰かにずっと、抱きしめて欲しかった。
「寝ました?」
「…あ、ハイ。…日狩君の親御さん…。」
「あぁ、……なんか話が通じない人で……施設に出すって聞かないのよ。」
どこからか数人のヒソヒソ話が聞こえてくる。
「ハァ…、可哀相にね。」
同情するのか深い溜息と、ナース同士の痴話話。
子供には大人の話などわからないといわれるが、そんなことは無い。
態度から読み取ることには長けている。
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