香蘭学園
2
新しい新居は車でどのくらい走ったかわからない。
知らない場所、今まで暮らしてきたような閑静な住宅街とは打って変わって、お世辞にも綺麗とは言い難いアパートの群が立ち並ぶ。
「…ママ?」
「ここが新しいお家。古いけど…我慢してね。」
手を引かれ、母親に連れてこられたのは、その中にある、一件の築20年近くこの街にあるだろう、と推測できる古いアパートの一室。
ガランとした部屋にはまだ何もない。
部屋も狭く、薄暗い室内はお化け屋敷を連想させた。
「荷物どうすればいいっすか?」
「あ、今行きます。日狩は邪魔にならない所にいてね。」
業者がテキパキ荷台の荷物を狭い部屋へ母親の指示で運び込む。
ただでさえ狭いのに、余計に狭くなる室内の片隅で外を眺めていた。
「……つまんない。」
外は綺麗な夕焼け。
真っ赤に日狩の顔を染めていく。
いつもなら朔夜と遊んでいるのに今は一人ぼっち。
近所の友達もいない。
トラックが発車する前、最後に朔夜が泣いていた。
「やだ、…行っちゃ、や…だ。」
後からその気持ちがわかるような気がした。
「…僕も…。」
日狩も今は同じ気持ちだ。
喧嘩しても何をしていても、離れるのがこんなに辛いなんて知らなかった。
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