香蘭学園 31 そう、自分が女だとしても許される事はない。 今まで何人にこうやって甘い言葉を囁き、身体を重ね合わせているんだろう。 胸が締め付けられた。 「朔…夜?」 名前を呼ばれるのも自分一人じゃない。今までだって何人も、と思うと嫉妬で狂いそうだ。 「ど…して…。」 勝手に涙が出た。 日狩の腕にしがみつく。 嫉妬しているなんて恥ずかしくて言えない。 時計の秒針と心臓の音だけが忙しなく耳の奥で響く。 「…今はこうしてたい。」 日狩の肩に手を回すと、自ら抱き着くかたちになる。 「困った女王様だ。素直なんだか、素直じゃないんだか…。」 日狩の笑う声が頭上からきこえてくると、今はこれでいいと思えていた。 指先に伝わる感触の違う皮膚。 日狩の肩にある過去もまた掘り返すことにもなりそうで怖かったからまだ聞けない。 今は好きと言われるだけでいい。 それをこれから温めていけばいいと。 大きめの日狩の服を羽織るとまた睡魔が襲ってくる。 幼い時はずっと一緒で、こんな風にくっついていることも当たり前で。 今も、これからも。 離れていた時期はあっても兄弟という事実は変わらないし、他人よりも近くて遠い曖昧な関係なのかもしれないけれど辿り着いた場所は間違っていないハズ。 間違いなんてないから。 間違いでも構わないから。 そっと触れるだけのキスが少しだけ苦かった。 [*前へ] |