香蘭学園
18
ここで『はい』を押したら全部消えてしまう。
迷いもなく日狩は『はい』を押す。
『暗証番号を入れてください。』と、表示が切り替わる。
「朔夜が消去して。」
「……。何で俺が…。」
「朔夜が消さないと納得できないだろ?」
日狩は何がなんでも朔夜に消してもらう意向の様だ。
ゆっくり朔夜はボタンを押す。
0、4、1、2―――。
確定を押せばまた、全件削除しますか?の文字。
もどかしい。押してしまえば気持ち的にはラクになるのに、それが出来ずに居る。
「これで最後…。」
日狩は朔夜の指を取り、重ね合わせて『はい』を押した。
数秒のち、
『全件削除しました』
携帯が何事もなかったように文字が告げる。
「あとは…。」
横からSDカードを日狩が引き抜くと、奥歯で割ってしまった。
真っ二つに割れた黒い破片が日狩の手の平にある。
「え、ぁ…日狩?」
「これでイイ。番号は週末にでも変える。」
朔夜は空っぽになった携帯を握りしめ、日狩の横顔を伺う。
嬉しいと思うのに、自分のワガママで何も記録がなくなった携帯はただのモノとしかの価値しかない。
スルリと手の平から携帯が滑り落ちる。
「気にしなくていいから。何も気にする必要はない。」
放心状態の朔夜を抱きしめ、ずっと囁いていた。
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