香蘭学園
10
『朔…夜…朔…チャン』
どこからか遠くで呼び掛ける声が聞こえる。
優しく暖かい。
この声の主を自分は知っているような気がする。
誰だっけ?自分に問い掛けた。
『朔夜ッ!』
今度はハッキリ呼ばれ、声の主を誰だか覚った。
まだ夢から覚め切らぬ朔夜の瞳が薄く開く。
「日…狩?」
朔夜は紡いだ糸を手繰り合わせ、自分の呼ぶ声の主の呼んだ。
完全に目を醒ますと少し目眩で目の前がぼやける。
朔夜は目を擦り、辺りを確認するかの様に見回した。
自分の部屋じゃない、白い壁とごわつく糊のかかりすぎなシーツ、ツンとする消毒液の臭い。
「おい、平気か?お目覚めは如何?榎本、朔夜君。」
「南…条…。」
そこには南条浬の姿。わざとらしくフルネームで呼び掛けられた。
パイプ椅子に座ったまま視線だけを朔夜に向け、読み掛けの本を静かに閉じた。
「俺、途中で意識なくなって…。あ、南条がココに?…サンキュ。」
「礼を言うなら、大槻言えよ。俺は少しの間、見ていてくれと言われただけだから。」
「日狩、っじゃなくて…大槻が?」
まだ日狩との関係を知られてはいけないと、慌てて朔夜が言い直す。
南条浬と朔夜は、中等部から一緒だったものの、あまり関わりもなく喋る機会もたいしてなかった。
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