香蘭学園
1
「ちょっくら出掛けてくるわ。」
「あっ、そ。」
時刻は、午後22時。
遠回りさえしたが、やっと両想いになったのに榎本朔夜と大槻日狩は未だにぎくしゃくした毎日を送っていた。
それもこれもお互いの性格の違いから始まる。
リビングで雑誌を読んでいると、朔夜の顔を見るなり苦笑しながら、日狩が急ぎ足で出掛けて行く。
毎度のことなのだが、いつもどこに行くのだろうと気になるのに、いつも聞けずにいた。
正確には聞きたくなかった。わかっていたから。
帰ってくるのは、決まって明け方。
いつも女モノの香水の香を纏ってくる意味を聞きたくなかった。
「朔夜、一緒に寝ようぜ?」
「遠慮しときマス!」
「アハハ…連れないなぁ…。」
苦笑する日狩に、朔夜はなかなか素直になれずにいた。
日狩に告白されて嬉しいと思うのに、プライドが邪魔をして、つい悪態が出てしまう。
素直になれたらいいのに、そうなれずにいる自分が酷くもどかしい。
「はぁ…。」
深い溜息を付き、読み掛けの雑誌を閉じた。
『抱いてもいい?』
日狩に、突然言われた一言が頭の中を埋め尽くす。
もちろん、朔夜は横に首を振った。
受け入れる恐怖も、日狩を一人の男として認識するまでに時間がかかる。
言い訳に過ぎないかもしれないが、抱かれるのがイヤだった。
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