香蘭学園
34
身体が軋みそうなほど強い抱擁。
目頭が急に熱を持ったかと思えば、涙で目の前の景色がぼやけてくる。
それがどうしてなのかまだ朔夜は気付けずにいた。
「本人より他人を信じるわけ?」
いつもとは違い、日狩の熱っぽく艶をはらんだ声。
真後ろから直に聞こえてくるのに心臓が早鐘のようにせわしない。
「最初に抱いたのは…復讐のつもりだったのかも。憎みたいのに…だけど、だんだん気になっちゃまってこのまま一緒に居たら、また無理矢理やっちまいそうで。」
自嘲しながらも困ったように話し出す。
「…どして。」
「俺さ…、お荷物だったみたい。」
日狩には珍しく哀愁に似た影が漂う。
父親についた朔夜は幸せな生活。
反対に日狩は母親につき虐待されていた。
揚句に施設に入れられ里子に出され、きっと朔夜がいつか迎えに来てくれると願ってばかり。
やっと見つけた時には忘れ去られ途方に暮れていた。
あったのは、『絶望感』
だけ。
独りよがりなのはわかり切っていた。
だったら一生消えない傷を背負わせてやろうと。
淡々と日狩の口から吐き出される事実に朔夜の表情は険しい。
日狩が怠そうに起き上がり、虐待の証である背中にある煙草の焼き跡を見せられた。
それは今も色褪せることがない。
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