優しさと強引さ
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改めてベジータを自宅に招く事になったリファは、とりあえずお茶とお菓子を出す事にした。
「丁度良かったです。実は、ベジータ王子に…その……大事なお話があったんですよ」
急須に入ったお茶湯を呑みに注ぎながら、話を始める。
果たして、ベジータはハロウィンパーティーに参加してくれるだろうか。
仮に来てくれたとしても、仮装は絶対に拒否されるに違いない。
もしそうなった場合、どうすれば良いだろうか。
内心ドキドキであったが、悟られないよう必死に笑顔を保つ。
「おい……どうでも良いが溢れてるぞ」
「あっ!す、すみません!」
そんな事を考えていたせいか、急須の注ぎ口を傾けている事に気付かず、お茶は湯呑みに入る容量の限界を既に通り越していた。
ベジータに言われ、慌てて台拭きで染み込ませる。動揺丸出しのミスである。
「……袖が濡れているぞ。ちゃんと捲(まく)ってから拭け」
「あ……す…すみません…っ今ちょっと襷(たすき)を洗濯していまして……」
和服タイプの服の為、何か作業をする時は必ず襷掛けをするリファ。
今日はもう誰も訪ねて来ないと思っていた為、帰宅してすぐに洗濯してしまったらしい。
「それなら捲るぐらいしろ。服が汚れちまうぞ。その服は一着しかないんだろうが……」
「え…あのっ……」
そう言うなり、ベジータは横から手を伸ばし、リファの腕を掴む。
そして、袖に余計なシワがつかないよう丁寧に折り捲り始めた。
「す、すみません…王子、ありがとうございます……」
ベジータとの距離があまりに近過ぎた為だろうか、リファは俯きながら恥ずかしそうに小さな声で礼を言う。
「まったくだ。毎度毎度オレに世話を焼かせやがって……面倒臭い女だぜ……」
「う"っ……すみません……」
言葉の刃が次々とリファの胸に突き刺さる。口ではそのような事を言うものの、ベジータは彼女の袖を折り終えた後、水浸しになったちゃぶ台をキレイに拭き取った。
やはり、さり気なく見せる優しさは誰よりも強い男である。
「だが、そんな所も貴様らしいがな……バカみたいに正直なのも、その無防備さも全てだ……」
「え……どういう意味……きゃっ!」
だが次の瞬間、ベジータはリファの腕を引っ張り、そのまま床に組み敷いた。
「…べ、ベジータ王子……どうしたんですか……?」
リファの顔のすぐ横にあるのはベジータの手。そして、視界に広がるのは天井ではなく彼の顔だ。
抜け出そうにも下半身を完全に固定されている為、どうにもならない。
「……どうもこうもない。オレが気付かんとでも思ったのか?」
「な、なにが……」
「さっさと言え。何を隠してやがる?まさか…カカロットの事じゃないだろうな……?」
「そ、それは…えっと……」
勿論隠しているつもりなどない。言いづらいだけであって、いつかは話すつもりでいたようだ。
だが、この状況で話せと言われても、 少々無理があるのではないだろうか。
「ほう……言わんつもりか…良いだろう…無理にでも吐かせるまでだ」
ニヤリと口角が上がり、リファの顔が徐々に彼の影に覆われていく。
「……まっ!待って!ベジータ王子!」
流石の彼女もこの後の展開が見えていたのか、離れて欲しいとベジータの胸板をグイグイと押した。
だが、当然力で敵う筈がない。
「待てと言われて待つバカがどこにいるんだ?」
「ち、違うんです!決してやましい事なんて考えてないですから!だから……」
ここまで来てしまえば、もうどうする事も出来ない。
リファはブルマに言われた通り、ハロウィンパーティーの事をベジータに話す事にした。
「……あ、あ……」
だが、言えなかった。
悪い事は、大抵絶妙なタイミングで起こるものだ。
そして、それはリファにとって最悪な結末を迎えてしまう前兆でもあった。
「……な、何やってんだ?おめぇら……」
「ご、悟空さ…ん……」
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