見失わない心
「ああ…今は当時の事を知らない奴が殆どだからな…それに、サイヤ人が今までしてきた事を考えれば、納得のいく答えだ」
ラニアはタグラの主張に肯定しなければ、否定もしなかった。
ただ静かに笑うだけ。
確かに、当時の事を知る者はもう一人も生き残っていない。
有力な証拠も何一つと残っていない為、今を生きる者達によって、真実を曲げてしまう事も簡単だった。
ラニアは、タグラの主張が嘘だとは思わないが、本当にそれが真実なのかと考えればまた話は別だと言った。
その過去にでも戻らない限り、真実など誰にも分からないだろう。
「…けど、一つだけ確かな事がある」
ラニアは人差し指を立て、再び口を開いた。
「奴が居たからこそ、リファが今もああやって笑って生きていられるって事だ…」
どんなに凶悪で、悪巧みしていたとしても、同じ界域の住民がその凶悪なサイヤ人に助けられたという事には変わりない。
その事については感謝するべきだろうと、彼はタグラに諭(さと)した。
「オレだってサイヤ人全体としては厄介な連中だと思っていた。だが、ヤツ個人としては…また別の話だ。リファを助けてくれた男には、感謝してる」
らしくない事ばかりを話す自分に対し、段々恥ずかしくなってきたのか、ラニアは頭を掻きながら後ろを向いた。
「…へえー。お前の口からそんな言葉が聞けるなんて、意外だな…」
少し合間があってから話し始めたのは、タグラだった。
ラニアとはもう何万年、何億年も共に生きてきた為、彼の事は全て知り尽くしているつもりだったようだ。
短気で、物事を何でも白黒で判断したがるラニア。今の彼の発言は、そんな彼の性格からして、どう考えても有り得ない内容だったのだ。
タグラは顎に手を添え、何かを考えるようにボソボソと呟き始めた。
「…てっきりそのサイヤ人の悪口を執拗に触れ回っていたのかと思ったが…」
「おい…ちょっと待て。お前…オレの事をそんな性悪みたいに思っていたのか!」
咄嗟にツッコミを入れるラニア。至近距離まで近付くや否や、彼の胸倉を掴む。
そして、目玉が飛び出る程に眼球を見開き、自分の人格を保持しようと必死だった。
その際、ラニアはタグラとの身長を合わせる為に翼で浮いていたという事実には触れないであげて頂きたい。
「ははっ、そんな事は思ってないぞ。ただ、リファの事を大事に想っているんだと思ってな」
「はあ!?何ワケの分かんねえ事を…」
「お前、分かりやすいからなー。どうせリファの夢を壊さないよう、やんわりとしか説明してないんだろ?」
「冗談じゃねえ。これ以上サイヤ人と当時のGZのイメージを壊させねえ為だ。リファに話す事で、悪い噂を広める奴が出てくるかもしれねえだろ?」
当時のGZとは惑星ベジータの担当だった者、つまりリファの両親の事である。
彼らに対する周囲からの評価は、賛否両論だった。
批判する者達が言うには、サイヤ人の手先だとか、裏切り者だとか。
命を賭けたGZに対し、後世の評価は酷いものだった。
だが、自分の両親が陰でそのような事を言われているなど、リファは知らない。
そもそも、彼女は自分の両親を覚えていないのだ。
「…だがラニア、いくら隠そうったって過去は消えないぞ?真実を一番よく知っているお前なら分かっている筈だが…」
「真実?お前…さっきも言ったがそんなもんは誰にも分かりゃしねえよ」
バカバカしいと盛大に笑い、軽くあしらうラニア。
「ったく……お前のくだらねえ話には付き合ってられねえ」
「…あ、おい!待てよラニア!」
ラニアは、タグラの話を聞かないまま飛び去って行ってしまった。
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