すぐれないお顔
「そうだな……お前の移住先が決まるまで【天界】で待っておれ。今、案内人を呼んでやる」
「…てんかい、ですか?」
リファはこめかみに人差し指を添え、どのような世界だったかを思い出す。
AC課だった彼女は、誰がどの惑星を担当しているのかを全て管理していた為、大抵の星については把握出来ていた。
だが、おかしな事に天界は彼女の記憶から外れていたようだ。アトラス界崩壊のショックによるものだろうか。
いずれにせよ、彼女はGZではない。実際に目で見た事がない分、外の世界に対する興味は膨らむばかりだった。
「お待たせ致しました。天界へお連れするのはそちらの娘でございますか?」
すると、少しも経たないうちに案内人なる者がやって来た。
「…あ!どうも初めまして!お世話になりまっ……ひえっ!?」
後ろから聞こえてきた声の主に、挨拶をしようとくるりと振り返るが、その主の姿を目にした途端、リファは大きく肩を揺らす。
「…あ、あの……お顔がすぐれないようですが、大丈夫です?頭にも腫瘍が飛び出てるみたいですし…」
リファは、心配そうにその者の顔を覗き込み、どこか具合が悪くないかを問うた。
彼女の目の前にいるその者は、全身の肌が緑色で明らかに健康ではなさそうだ。
因みに彼女が言う腫瘍とは、頭に生えている触角の事である。
「い、いや…わたしは……」
一方、大丈夫かと問われた彼はどのように答えれば良いか分からず、苦笑を浮かべている。
「がっはっはっ!顔色を心配されおるとは、随分と老いたもんだな。地球の神よ!」
すると、その息詰まるような空気を消し飛ばすかのように、閻魔大王の盛大な笑い声が辺りに響き渡った。
「閻魔大王さま…この顔色は生まれつきのものです。ご冗談がキツ過ぎますぞ!」
地球の神と呼ばれるその者は、額から汗を流し、全力で否定する。
触角が垂れ下がっている事から、若干傷付いているのではないだろうか。
「はっはっは!すまんすまん。紹介するぞ。その娘はリファイン・レクラーク・バートレット…いや、リファと申す者だ」
だが、そんな事も構わず、閻魔大王の笑いは未だ止まらない。
目に溜まる涙を拭いながら、リファの事を紹介した。
「リファとやら、わたしは地球と呼ばれる星の神だ。おぬしの話は閻魔大王さまよりお伺いしておる。色々と大変だったな」
気を取り直し、リファに目線を向けるこの緑色の人物。彼は、地球を担当する神だそうだ。
「…か、かみさまですか…ちきゅうの…初めまして、私は………っ!?」
リファは、自分も自己紹介をしようと慌てて頭を下げるが、その途端にピタリと動きを止めた。
「…………」
再び顔を上げるなり、地球の神と名乗る彼の瞳をじっと見つめ始めた。
何かを感じ取っているのだと思われる。
するとーー。
「ーっ!?…どうしたのだ!?」
地球の神は突然の光景に驚き、何かあったのかと彼女に近付いた。
ーポトッ… ポトッ…
そう、リファは無意識のうちに涙を流していたのだ。
「…え?あっ!すみません!私…何で涙なんか…」
頬を伝う涙を慌てて拭うと、何でもないのだと笑ってみせる。
だが、全てを隠し通そうするには流石に無理があるだろう。
彼女は祈るように両手を胸の前で組み、目を閉じた。
「…ただ、ちきゅうのカミサマの心はすごく温かいなあと、感じました」
そう言うなり、にっこりと笑った。
先程、彼女が何かを感じ取るような行為を見せていたのは、地球の神の心のオーラを見ていたのだという。
これにより、心の状態や本質的な人柄が分かるのである。
地球の神は、顔色こそ病気の如く悪いが、中身は大違いだった。
澄んだ水のような綺麗な心が彼を輝かせている。まるで、神の偉大さを物語っているかのように。
同時にぼんやりと見えたのが、地球の神がどのような生涯を送ってきたのかという事だ。
恐らく、彼女が強い刺激を受け、涙を流した理由はそこにあるのだと思われる。
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