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泥沼の世界





「…はあ……」



ラディッツが飛び去っていき、ぽつんと取り残されたリファ。


キョロキョロと辺りを見回すが、視界に広がるのは砂地のみ。何もないからこそ、何とも言えない恐怖の波が押し寄せてくる。


だが、今はそのような事を考えている余裕などない。ラディッツが居なくなった今こそが悟飯を救出する絶好のチャンスだからである。


彼の事を危険な人物だと思っているわけではないが、悟飯が居なくなって心配している悟空の顔を思い浮かべると、酷く胸が痛む。


これから起こらんとしている問題に、小さな子供を巻き込むわけにはいかない。せめて悟飯だけでも悟空の元へ返すべきだろうと考えたのだ。


ゴクリと唾を飲み込むと、周囲の様子を気にしながらゆっくりと宇宙船に近付いて行く。


そして、悟飯が入っている宇宙船にそっと手を添えた後、耳を当てては中の様子を確認してみる。


微かな寝息が聞こえる事から、悟飯は泣き疲れて眠っているのだろう。



「よかった……」



ホッとしたリファは、肩の力が一気に抜けたようだ。


後はこのまま扉を開けるだけ。簡単な事の筈なのに、何故か手が動かない。



「…何やってるんだろ、私……」



先程のラディッツとの会話で何かを感じたのだろうか。ずっと思いつめたような顔をしている。



「ラディッツさんは…絶対何か隠してる…悟空さんを星の制圧の為だけに仲間に引き入れようとしたわけじゃないと思うんだけどなぁ……」



そして、とうとう扉から手を離し、宇宙船に前で三角座りをすると、そのまま顔を埋めてしまった。


もし、彼の本当の気持ちが見えないまま弟である悟空と対峙する事になってしまったら。


そして最悪の場合、どちらかが命を落とす事になってしまえばーー。



「そんな悲しい事って…ないよね…同じ一族で、血のつながった兄弟なのにさ……」



そう思う度に悲しさは増してくる。埋めていた顔を縮こまるように更に埋めた。




ーー迷うな!オレを殺せ!




その直後、ふとある場面が脳裏に過(よぎ)る。頭の中で映し出されるドット絵が、徐々にリアル化されていく。


そこには、大勢のアトラス聖霊やリファの友人であるラニアが居る。恐らく、まだアトラス界が健在だった頃だろう。


彼らは何者かに攻められているようだ。向かってくる攻撃に必死に抵抗している。


宇宙戦争の最中なのだろうか。鈍い音が響き、惑星が振動している。まるで惑星自身が悲鳴を上げているかのよう。


尋常ではない激戦だ。


それもその筈。戦っている相手は優秀なGZ達、アトラスの仲間だからである。


彼らはある事件を境に、対立してしまったようだ。


それは、一つの星が滅亡の危機に瀕している時であった。


その星を残すべきだと主張する者、そのまま捨て置くのが妥当だという者、意見はそれぞれだった。


だが、人々を正しき道へ誘(いざな)う重役を担う者達にとって、意見が分かれてしまうという事は有るまじき事態なのだという。


内揉めしているようでは、宇宙の安定を保つ事など、到底不可能。


議論して解決しないなら、強行手段に移るしかない。


そう考えたアトラス本部は、意見を統一させる為に、仲間同士戦わせる事にした。


保守派の聖霊を全て排除するように、密かに命令を出したらしい。


中立の立場である筈のアトラス本部のトップが、見えない所で動いていたのだ。


それにより、何も知らない保守派の者達は、次々と殺されていった。


たとえそれが親しい仲間に恋人同士、家族であってもーー。


アトラス界に住む者達は、惑星守護という肩書きがある為、一見華やかそうに見える。


だが、その裏側は泥沼に塗れた闇の世界だった。



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