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複雑な心境





「…ねぇラディッツさん、一日中ずっとこうしているんです?」



宇宙船付近の窪んだ地に腰を下ろし、足をパタパタさせながらラディッツに問うリファ。


慌ただしくも、彼女は足袋と下駄を履いていない状態で連れて来られた為、足に付着している砂や泥が気になるのだろう。



「いや…流石にそれはない。メシも調達せねばならんからな……」


「…そういえば、お腹空きましたね。私、ここに来てから何も食べてなくて…何か探しに行きますか?」



そう言うなり、リファは眉を八の字にさせ、今にも鳴ってしまいそうなお腹を押さえる。


この星にどのような食べ物があるのだろうかと、色々想像するその表情は好奇心に満ち溢れていた。



「…お前……」



全く緊張感のない彼女の反応に、ラディッツは呆れているようだ。


念の為確認しておこうと、彼はリファの前で膝をつき、真剣に問うた。



「自分が人質だという自覚はあるのか?カカロットが来なかったら死ぬ事になるんだぞ?」



自分は戦闘民族であり、人質を生かしておくほどの情は持ち合わせていないと。


そして、死を指し示すかのように彼女の首筋にある脈を手でそっとなぞった。



するとーー。



「…本当に、そう思っています?」


「なっ…何!?」


「何となく、ですけど…あなた、そんな酷い事が出来るような人には見えないんです…だから、本当はもっと別の理由でここに来たんじゃないかって……」



首筋にあてがわれた彼の手をそっと掴むと、申し訳なさそうに笑った。



「っ…!ふざけているのか!?オレはサイヤ人だ。どういう種族なのか知っているんだろ!?」



驚きのあまり、彼の声が荒々しく変わるが、リファの表情は先程と何一つ変わらない。



「…私にとって、サイヤの方達は憧れなんです。小さい頃からずっと……」



ただそっと目を閉じ、微笑みながら話を続けるだけであった。



「惑星ベジータはもう存在しない星ですし、悟空さん以外のサイヤの方には二度と会えないと思っていました…でも……」



だが、しだいに彼女の身体が震え始めた。恐らく、当時の事を思い出したのだろう。


俯く彼女の瞳から、綺麗な雫が一粒、そしてまた一粒と落ちていく。


サイヤ人がまだ生きていたという事実に安堵し、抑えていた感情が一気に溢れ出したのだ。



「…お、おい……!」



流石のサイヤ人でも女の涙には慣れていないのか、どのような反応を見せれば良いのか分からなかった。


ただ複雑な表情を浮かべるだけ。



「…確かに、サイヤの方々が悪く言われてきたのは事実です。でも…きっとそれは一部の人で、中には正しい心を持った方も居たはず……」



リファは必死に訴えた。彼らに存在する強大な力は、殺戮の為だけにあるものではない。


本来は、大切なものを守る為にあるのだという事を。そして、ラディッツも正しい心を持ったサイヤ人のうちの一人だという事を。



「…フン…くだらんな。正しい心だと?笑わせるな。オレ達サイヤ人に正義も悪もない。ただ与えられた任務を果たすだけに過ぎん……」



だが、リファの願いは届かなかった。


ラディッツは、彼女の手に包まれた指を振り払い、素っ気ない言葉を返すだけ。


そして、そのまま何も言わずに遠くへと飛び去って行ってしまった。



「…ラディッツさん……」



あっという間に見えなくなってしまったラディッツの方を、未だぼーっと眺めるリファ。


どうやら彼に理解して貰えるまで、かなりの時間がかかりそうだ。



*****



「……な、何なんだあの女は……」



一方、舞空術で高速に移動しているラディッツは、何やら混乱している様子。


今まで仕事依頼の者以外で、サイヤ人に対し個人的に好意を持つ者など、居ないのだとばかり思っていたからだ。



ーーピタッ……



だがその直後、何かを思い出したかのように飛ぶのを止めた。



「いや…待てよ…本当に一人も居なかったのか……?」



そう呟くなり、彼は来た道を振り返ると、スカウターでその方角にあるだろう戦闘力を調べてみる。



「…やはりあの女……何かを知っていやがるかもしれんな……」



どうやら何かに勘付いたようだ。


ラディッツは、このまま彼女の元へ引き返すべきかどうか迷っていた。


だが、頭のどこかでお腹を空かせて顔を歪めている彼女の姿が、まるで己の行動を妨げるようにして浮かび上がる。



「チッ…!世話の焼ける女だ……」



舌打ちしながらも、ラディッツは引き返す事はせず、そのまま移動を再開させた。


無反応なスカウターに手を添えながら。



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あきゅろす。
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