雲に乗る青年 「ったた……」 煙が上がった乗り物の中から、おバカな三人が咳き込みながら這い出てきた。 「ゴホッ…ゴホッ!おい!お前さっき窓から何を見たんだ?」 操縦していた男が、何やら乗り物の部品のようなものを握りしめながら問う。 どうやら操縦レバーのようだ。先程の衝撃により、欠損してしまったのだと思われる。 「いや…黄色い人が子供が…浮いて……」 「はぁ?何を言ってんのか全然分かんねえよ!ちゃんと説明しろ!」 ーーガンッ! 苛々した男は、思わず操縦レバーを思い切り相手に投げつける。 「いってぇ!…いや!痛ぇけど絶対に夢だ!そんな事あるはずねぇ!」 投げつけたそれは、相手の額に見事にクリーンヒットした。 鉄製の操縦レバーだ。相当痛いと思われるが、彼はコブが出来た額を押さえながらあちこち動き回り、動揺している。 地球人の割にはタフのようだ。 「だから!そんな事って何なんだよ!」 彼のその意味不明な言動に、レバーを投げつけた男の怒りは更にヒートアップしてしまった。 だが次の瞬間、それも一気に鎮まった。 「おーい!おめえら!ちょっと聞きてえ事あんだけどよー!」 「「え・・・・?」」 その声に、二人は同時に固まる。聞こえてきた場所が頭上だったからである。 恐る恐る見上げてみるとーー。 「おっす!」 「ぴぎゃぁぁーー!!」 黄色い雲の上で屈む子連れの青年が、片手を上げながら彼らを見下ろしていた。 黒い瞳に黒い髪。そして、山吹色の胴着を着たこの人物は他でもない、孫悟空である。 「な…ななな…く、雲に乗ってる…」 何かの見間違いではないかと目を擦っては何度も凝視するが、やはり間近に居る彼は、雲の上に乗って浮いている。 あまりの衝撃で、彼ら三人は腰を抜かし、全く動けないでいた。 「あのさぁ、そん中にもう一人居んだろ?ちっせぇ身体の女なんだけどよー」 「お…女の子?さ、さあ…知らないなあ…オレ達は元々三人だったぜ…?なっ?そうだよな?お前ら!」 「あ、ああ!そうだぜ!見間違いなんじゃねえか?」 しらばっくれる男達に悟空は呆れ果て、やれやれと溜め息をついた。 「…おめえ達見るっからに悪そうなツラしてんもんなー…わりぃ事は言わねえ…早ぇとこ降参しちまった方がいいぞ?」 「…な、何の事だ?オレ達はこれからバカンスを楽しむ予定だったんだぜ?なっ!?お前ら!」 「そ、そうだぜ!なのにお前はオレらの乗り物をこんなボロボロにしやがって…どうしてくれんだ!?」 「へ…?ばかんすって何だ?三人で何か面白え事でもやんのか?」 「違うわバカタレ!いい加減にしねぇとブチ殺すぞ!!」 どうやら悟空はバカンスの意味を分かっていないらしい。何かのお笑いトリオだと思い込んでしまっている。 「ま、別にどうでも良いけどな!そんな事より、早く返ぇして貰うぞ。そいつ、オラが居ねえと死んじまうんだかんな!」 悟空はピョンと雲から飛び降りるなり、悟飯を担いだまま壊れた乗り物がある方へ向かっていく。 「え……?ちょっと……」 拳銃を構えているのにも拘らず、アッサリと無視され、彼らはただ呆然と見ている事しか出来なかった。 、 [*前へ][次へ#] [戻る] |