推理
だが、その心配はなかった。
悟空が気を送り始めてから数秒後、リファの顔に血色が戻り始めたのである。
「ふう…もう大ぇ丈夫だろ……」
気の放出を止めた悟空は、額から流れ出る汗を腕で拭った。
「…カリンの言った通り、孫悟空なら何とか出来た。よかった。これでリファ、助かる。孫悟空、やっぱりおまえ、すごいヤツ」
ミスター・ポポは懐からハンカチを取り出し、数滴溢れ落ちた涙を拭った。
とりあえず、リファが自然に目覚めるまで別の部屋で待機する事にした。
*******
「でも、孫悟空…何故自分の気でリファを助けられると思った?」
悟空は、ミスター・ポポに飲み物をご馳走になっていた。
グラスに入ったオレンジ色の液体をストローで一気に啜り終えると、一旦グラスを置く。
そして、先日対峙したガーリックJr.の事を簡単に説明し始めた。
尽きてしまったリファのパワーは、悟空の気を送る事で回復出来た事。
色々苦戦を強いられたが、結局開かれたデッドゾーンはリファの気で塞がった事など、説明が苦手な彼なりに身振り手振りを使いながら、必死に伝えた。
「…実は、オラもおどれえてんだ。まさか自分の気であいつのパワーを回ぇ復出来ちまうなんてよ……」
あの時は、生きるか死ぬかの狭間に立たされていた為、あまり深くは考えられなかったが、改めて振り返るとやはり不自然に感じたようだ。
「でも…ただの偶然にしちゃあ、出来過ぎてっ気がすんだよなあ……」
頬杖をつき、顔を歪める悟空。
判断材料が全く足りていない現状で今一つ、最も気になる事があるらしい。
それは、リファが過去に出会った人物と自分とで、何か深い関係があるのではないかという事だ。
「……分からない。神さまもミスター・ポポもリファからはその人物の事、聞いていない」
ミスター・ポポは首を左右に振り、俯くと一旦その場を後にする。
だが、数秒もしないうちに戻ってきた。大きな水瓶を持って。
「此処に来た時、リファ言った。惑星を守護する事、アトラスの使命。歴史を繋げる為に生きる事、アトラスの復活につながるのだと……」
持っている水瓶に入っているオレンジ色の液体を、彼の手元にある空のグラスに再び注ぎ足すミスター・ポポ。
この真っ黒な男がホール業務紛いな事をする姿は、似ても似つかない。
「…なあ、そのアトラスってなんだ…?あいつの生まれ故郷か?星を守るって……?」
グラスに注ぎ足された液体を、再びストローで啜る悟空。どうやら話についていけていないようだ。
「詳しい事、ミスター・ポポにも分からない。リファが話す事を拒んでいるような気がする。だから打ち明けるまで待つ。だが、なんとなく分かる。それ、きっと我々が踏み込んではいけない領域」
「んぐぅっ!?」
つまり、神以上の領域という事だろう。それを聞いた悟空は、飲み物が気管に入り、喉を詰まらせてしまった。
「ゴホッ…ゴホッ!…っ神さまでもか!?あいつ、すげぇ力は使えるみてぇだけど、そんなに偉ぇヤツには見えなかったぞ?」
未だ喉に残る違和感に苦しむ悟空。胸元を押さえながら、リファの顔を思い浮かべる。
あんなに小さな身体の少女が、本当に神よりも偉大な存在なのだろうかと、疑問を抱いているようだ。
「孫悟空、これからどうするか?あの娘、多分おまえが居ないと生きていけないと思う」
「どうするったってよ…オラが居ねぇとあいつ、死んじまうかもしんねぇんだろ?」
「でもおまえにも色々事情ある。妻も子供も居る。無理にとは言わない」
「いやいや!ちょっと待ってくれよ!見殺しになんて出来ねぇだろ!」
「どっちにしてもリファ、しばらく天界で暮らす。時々で良い。おまえが様子見に来ると、かなり助かる」
「ああ、オラは問題ねぇ。天界で修業もしてぇし、会いに来てやらあ」
そう言うなり、悟空とミスター・ポポはガシッと片手を掴み合った。
「さて、と……」
悟空は手に持っていたグラスをテーブルの上に置いた。
「一旦下界、帰るか?」
彼の見送りをしようと、ガタッと椅子から立ち上がるミスター・ポポ。
「いや……」
だが、彼は立ち上がる様子もなく、何も言わずに険しい表情を浮かべている。
珍しいその雰囲気に、ミスター・ポポはゴクリと唾を飲み込んだ。
まさか、まだ解決すべき問題があるのではないかとーー。
「はははっ!わりぃ!ホッとしたら腹減っちまった!何か食わしてくんねぇかな?」
「…………」
だが、悟空は至って普通だったようだ。
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