短編集 その@
人混み (忍足謙也)

好き、なんて、云われへん。

相手は東京。

俺は大阪。

遠距離すぎるわ。

好きな娘には、毎日でも逢いたい。

でも、大阪に来い、や、なんて、云われへん。

云われへん事だらけや。

「謙也」

「何や、白石か…」

「はよ、云わんと、悠ちゃん、取られんで」

「……………」

その言葉に、何の反応も無かった。

取られてしまう。

そうかも知れん。

「奏から聞いたけど―――…」

白石は、悠香の妹、奏荼と付き合っとる。

だから、その情報は間違いない。

「今度の連休、奏荼がこっちに来るさかい、話してみ?」

白石の言葉に、「おん…」しか云えなかった。

そして、待ちに待った連休初日。

奏荼は、白石に連れられ、その場から離れた。

残されたんは、俺と悠香だけ。

悠香はそわそわ、していた。

もしかしたら、嫌、なんかな。

俺と一緒におるん………。

一抹の不安が過る。

「「あ、あの…っ!!」」

ハモってもた。

「え〜と、な、な、何や?」

「忍足さんこそ…

2人が、言葉を譲り合う。

「……行きたいトコあるん?」

「大阪、良く知らないから…」

「な、なら、俺のオススメ、行く?」

そう行って歩き出す。

人混みの中、ただ、黙って歩く。

「…

悠香は必死になって、迷子にならない様に歩く。

それに気付いて、俺は、自然と手を差し出した。

悠香は、柔らかく笑うと、その手を掴んできた。

このまま、時が止まれば良いのに…。

人混みに、少しだけ、感謝。



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あとがき

純を目指してみましたが…無理な事が判明。


オマケ。

「悠ちゃんに、好き、云うたか?」

「………」

「やっぱり、謙也はヘタレや」

「うっさいわ」

「先輩、最悪っすわ」

「何?何の話?」

「小春。謙也がなぁ――…」

「白石ぃ

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あきゅろす。
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