番外編
夕御飯
奏荼の家に招かれてから、数時間。
二人は、テニスの試合のDVDを見ていた。

「良く手に入れたな」
「ん?兄上がくれたんだよ」
「海音さんか?」
「うん」

ふぅふぅ、と、息を吹き掛けながら、ほうじ茶を啜る奏荼の頭を優しく撫でる。

「へへッ」

こてん、と、国光の右肩に頭を預けて、DVDを見る。
国光が奏荼の頭を撫でるーーー……、その行為は甘えても良い、と言う行為。
それをすると、奏荼はこうやって国光の肩に頭を乗せてくるのだ。
誰にも見せる事のない、奏荼の姿。
この姿を、他の男が見る。
無条件に甘えてくる奏荼。

誰にも見せたくない。

胸の奥が、ドス黒い物に包まれる感覚に襲われる。

けれど、言葉に出来ない。
そんなもどかしさに、自嘲の笑みが漏れた。

「ハチミツくん?」
「……何でもない」
「そう?」

奏荼は微かに眉根を寄せるものの、興味がないのか、視線は国光から外れ、テレビへと向いた。
暫く、DVD鑑賞に勤しむ二人だが、そろそろ、夕食の時間帯である。

「あ、もうこんな時間。今日は、お魚だけど良い?」
「ああ。構わない」
「じゃあ、ご飯の仕度してくるね」

奏荼はそう言うと、近くにかけてあったエプロンを身につける。
奏荼のエプロン姿を見て、不意に言われた言葉を思い出した。
それは、5校合同合宿での事。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ハチミツくーん」

にこにこ、と、小鉢を持って国光の前に姿を見せる奏荼。

「今日の夕食の小鉢に、小芋の煮物を作ったんだ〜。味見て(^-^)」
「今日は奏荼が作ったのか?」
「そうだよ〜。今日は和食だよ」

にこやかに話し掛けてくる奏荼に、国光は何も言わず、小芋の煮物を口に含む。
ほくほくな小芋に、しっかりと味が染み込んでいる。

「美味しい……?」
「あぁ。丁度良い」
「わーい。レパートリー増えた〜(*^^*)」

パタパタ、と、空になった小鉢を手に、奏荼は厨房に向かう。

「可愛いね、彼女」
「……」
「まるで、手塚のお嫁さんみたいだね」
「不二……」
「クス、冗談だよ」

突如現れた周助に、そう言って、冷やかされた。
そして、それからと言うもの、奏荼を見る度に、
「手塚のお嫁さん、今日は何処に行くのかな?」
等と言われ続け、青学の中で付いた奏荼のアダ名は"手塚(部長)のお嫁さん"だった。
無論、スミレまでもが、奏荼をそう呼ぶので、国光は、痛む頭を押さえていたのは言うまでもないが。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


国光は、突如思い出した出来事に、にやける口元を被った。
奏荼は、そんな事を言われているなんて知る由もなく、夕食の仕度に取りかかっていた。




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あきゅろす。
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