番外編
泊まっていって?
卒業式を終え、誘われた卒業パーティーに出席し、家族旅行も終えた。

時間が経つのは早いものだ、と、痛感する。
奏荼は卒業パーティーには出席しなかったようで、パーティー会場では姿を見る事はなかった。
そんな事を振り返りながら、奏荼の家のインターホンを鳴らす。
すると、頬を赤らめた奏荼が、おずおず、と姿を見せた。

「いらっしゃい。ごめんね、急に招いたりして…」
「構わない」
「さ、上がって?」
「お邪魔します」

数年ぶりの奏荼の家。
懐かしく感じるのは、気のせいだろうか。

「ほうじ茶で良い?」
「ああ……。海音さん達は……?」
「兄上達なら居ないよ。仕事で地方にいるから」
「前にも言ったはずだが……?」
「それどころじゃなかったでしょ」

その言葉に、国光は黙り込む。

「今日は、泊まって行ってね。おば様とお祖父さんには連絡してあるから」
「……聞いてはいないが?」
「……黙ってろって」
「母さん……」

国光は静かに手を額に置いた。

「………泊まるの……嫌?」

コトリ、とマグカップが置かれる。
不安そうな表情が、国光を見る。

「奏荼を一人には出来ないだろう」
「良かった……」

別れ話になるのに、奏荼を傷付けようとしているのに、奏荼の笑った顔が見たくて、咄嗟に出た言葉。
奏荼は、国光の心を知ってか知らずか、柔らかく笑った。





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あきゅろす。
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