まぼろばの蒼月
008
ドキン、ドキン、と、鼓動が激しく脈を打つ。
エースが本気である事は、その眼差しが訴えている。
[エースくんと、一緒に暮らす……?]
シャナメルは戸惑いを隠せない。
幾ら、1つ屋根の下で暮らしている、とは云えど、部屋は別々。
一緒に暮らす、と云う事は、10日に1度のお泊まり、は無くなり、エースの気の向くまま、欲望に翻弄される事になる。
そうでなくとも、エースのテクニックに翻弄されっぱなしなのに、歯止めが無くなれば、どうなるのだろうか。
エースの事は大好きだが、それとこれとは話が別、となる。
「メル?」
急に黙り込んだシャナメルを不審に思ったのか、エースは、シャナメルの顔を覗き込んだ。
バチリ、と目が合う。
『えっ、あっ、その………っ』
顔を真っ赤な林檎の様に染め上げたシャナメルを見て、エースはクツクツ、と、喉の奥で笑った。
「クックック……。無理強いはしねェよ。考えてみてくれりゃあ良いから。考えた結果、まだ一緒に暮らせねェなら、口説き落としゃあ良いしよ。メルをオトす自信はあるぜ(^^)v」
『……………』
得意気に笑うエースに、シャナメルは申し訳なく思う。
ーーーー…どうして、頷けないの……?
こんなに、エースくんのコトが大好きなのに、どうして、頷けないの?
自分自身のココロが、判らない。
じわり、と、目に涙が浮かぶ。
「……泣くなよ」
『………泣いてなんか……』
「ったく……。どうせ、おれのコト、気遣ってンだろ。ンなコト、気にすンなよ」
ちゅ、ちゅ、と、頬や目尻にキスの雨が降る。
『…擽ったいよ』
「ん?やっと、笑った」
『え?』
「おれさ、メルには、笑顔で居て欲しいンだよ」
ぎゅう、と、音がする程、シャナメルを抱きしめる。
「おれのオンナは、メルだけで良いンだ。ずっと、おれの手の届く範囲に居て、笑ってて欲しい。その為だったら、どんなコトでもしてやるよ」
柔らかい声で甘く囁く。
『エースくん……』
「メル……。愛してンぜ」
2つの影が、ゆっくりと重なる。
そして、2つの影が、横たわる。
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