まぼろばの蒼月
001
モビーディック号に戻って来たマルコとエースを見て、クルー達は、何も云えなかった。
エースの腕の中で気を失っている少女を優しく見つめるその様子は、何時ものエースではなかった。

「エース、おれは親父ん所行って来るよぃ。シャナメル……ったか?そいつを乗せるかは、親父に聞かねェと」
「………コイツが目醒めたら一緒に行く」
「何ほざいてやがるンだよぃ。医務室に預けて、お前も一緒に来るんだよぃ」
「何でだよ!!」
「親父を説得すんだよぃ。お前が守ってやるんだろ?」
「……あァ」

何処か納得がいかないが、自分達が勝手に船に乗せる訳にもいかず。
気を失っているシャナメルをナースに預ける為、医務室に向かうと、ナースは「後で詳しく教えなさいよ」と、瞳を輝かせて云う。
どうして、女って奴は、こう云う事柄に目ざといのか、理解出来ないエースであった。




◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇




「………」
「………」

沈黙が重い。

「エース」
「ンだよ」
「その娘に同情したのか?」

マルコ、エースの両名から事情を聞いたニューゲートは、閉じていた瞼を開き、真剣な眼差しで、エースを捉えた。

「同情…?どう云う意味だよ」
「そのままの意味だ。バカ息子。不憫な環境で育ったのは確かだろう」
「なら……ッ!!」
「同情して、憐れだと思って連れて来たのか?それだったら、その娘の為じゃねェ。テメェのエゴを満足させる為に連れて来ただけじゃねェか」
「ーーーー…!!」

[親父も酷な事を云うよぃ]

マルコは黙ったまま、エースを見ていた。
口を出す事は簡単だ。
だが、"何の為に"シャナメルを連れて来たのか、それをエース自身が判らないと意味がないのだ。
シャナメルを守るのは"エース自身"だ、と云う事を。

「同情なんかしてねェ。ただ、アイツを独りにしたくなかったんだよ!!」
「してンだろうが!!」
「違うッ!!おれは、アイツが泣いてた時に、泣き顔なんて見たくねェ、笑顔が見てェって感じた。側に居て、同じ景色見て、一緒に泣いたり笑ったりしてェって思った。アイツは……シャナメルはおれが守る。だから、親父、シャナメルをこの船に置いてくれ」

エースの言葉に、ニューゲートは暫し、沈黙を保っていた。
その沈黙がやけに重く、2人にのし掛かる。
ダメだ、と云われるのか、と思った瞬間、「グララララララ…」と盛大な笑い声が聞こえた。

「最初からそう云え、バカ息子」
「「は?」」
「惚れちまったンだろうが、その娘に」
「???」

きょとんとなるエースに、盛大な溜息を吐く。

[判っちゃいねェのかよぃ!!!]
[…………鈍すぎやしねぇか?]

海賊は男社会。
それ故、恋愛なんて出来やしない。
だから、島に降りる度に、商売女を抱き、一夜の"恋"を愉しむ。
だが、どちらか、と云えば、エースは女を抱かないと云う訳ではないが、比較的呑みに行く回数の方が多い。

[ううむ……サッチと行かせれば良かったか]



後悔先に立たずーーーー…そんな諺が脳裏を過ったのは云う迄もなかった。



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あきゅろす。
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