まぼろばの蒼月
010 エースside
「まァだ、拗ねてンのかよぃ」
「………」
マルコは苦笑いを浮かべながら、エースを見つめる。
すると、エースは右眉をピクリ、と動かしながら、「別に」と答える。
[拗ねてやがるよぃ]
マルコはその様を見て、「はぁ」と溜息を吐いた。
エースが拗ねるのも当然である。
やっと、拐われたシャナメルを奪い返し、口論になりながらも、漸く二人きりになれた、と云うのに、宿に着くなり、今度はニューゲートの、
「テメェら、何処ほっつき歩いてやがった。今から、温泉に入るぞ。グラララララ…」
と、云う言葉に、シャナメルと引き離されてしまった。
折角、二人きりになり、事に及べる様に、雰囲気も出した、と云うのに。
モビーディック号ではなかなか、シャナメルと二人きりになるのは難しい。
なったとしても、キスするのがやっと。
それ以上の事をしようとすると、シャナメルが拒むのだ。
[何時になったら、メルを抱けるンだよ]
シャナメルを抱きたくて抱きたくて仕方がない。
どうにかして妨害を排除しなくては。
そんな事を考えていると。
「れ?エース?」
「…ルフィ」
ギロリ、と睨まれ、ルフィは小首を傾げる。
「機嫌悪りィなァ」
「誰の所為だよ!!」
大体、ルフィさえ現れなければ、シャナメルを抱く事が出来たのに、邪魔をした本人は涼しい顔をしているのが気に入らない。
「ルフィ、ソイツ………」
「おれの兄貴のエースだ!!で、こっちがゾロで、あっちがサンジ」
「………」
「………」
ルフィの仲間なのだろうか。
金髪の男と、短髪の男ーーーー……ゾロとサンジがエースを見る。
沈黙が走る。
すると、
「キャッ、あっつーい」
「身体が冷えてるからよ」
女湯の方から声が聞こえる。
「ナミさんにロビンちゃんッ」
サンジの目がハートマークに変わる。
ピクッ、と、エースとマルコ達が、反応を示す。
隣には、シャナメルが居る。
シャナメルの裸を拝ませる訳にはいかない。
「親父?」
ニューゲートはザバザバザバ、と湯の中を歩き、腰を据えた場所は、壁沿い。
女湯を覗こうものなら、ニューゲートの覇気によって攻撃されるので、シャナメルの裸が見られる事はなかった。
「なァなァ、何で湯に浸かれンだ?」
きょとん、とした表情でニューゲートを見つめる。
それもその筈。
悪魔の実の能力者は、多大なる能力を得る代わりに、水に嫌われる。
そして、身体の半分が水に浸かると、力が抜けてしまうのだ。
それなのに、ニューゲートは力が抜ける事なく、でん、と構えている。
「温泉の島の温泉は、力が抜けねェンだよ。理由は聞くなよ」
「判った」
ルフィは頷く。
それを見たエースは、何事もなかったかのように、ザブン、と湯船に浸かった。
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