まぼろばの蒼月
003
ゴイン!!
小気味良い音が響くが、目の前には誰も居ない。

「………あれ?」

手応えはあった。
けれど、誰も居ない。

『どうかした?』
「嫌……何でも……???」

小首を傾げて、考え込む。

[人の気配はあったから、幽霊な訳ねェし……。まさか………]

エースは、恐る恐る、開けたドアの後ろを覗き見る。

「うおッ!!」
『エースくん?!』

エースの小さい叫びに、シャナメルはエースの後ろから覗いて見る。
ドアの後ろから見える、人らしきモノ。
どうやら、エースが勢い良く開けた瞬間、開くドアから逃れる事が出来ず、ドアに激突し、そのまま壁と一体化してしまったようだ。

『と、兎に角、部屋に……ッ』
「あァ、判った」

エースは、壁と一体化してしまった人物を、壁から引っ剥がし、部屋に連れ込んだ。

『………ダイジョブ?』
「………多分」

タンコブになっている所に、濡れたタオルを当てて冷やし、擦り傷らしい所は、絆創膏を貼った。

「う……ッ」
「あ、気付いたか?」

壁と一体化してしまった人物が、ふるっ、と瞼を開く。

「痛ってェ……」
『ダイジョブ?』
「………」

フルフル、と頭を振ると、エースとバチ、と目が合う。

「え……、ル、ルフィか?!」
「エース!!」
『???』

きょとん、とした表情で、エースとルフィと呼んだ少年を見つめる。

「うわっ、うわわっ!!マジでか!!久しぶりだな!!」
「おぅ!!ここに着いたらさ、エースが居るって聞いて、会いに来たんだ」

ニシシ、と笑い合う二人。
お互い、「元気だったか」だとか、「海賊になったんだってなァ」と、話をしている。
そんな二人を見ていたシャナメルは、ズキン、と、微かに痛む胸の奥に、小首を傾げていた。

ーーーー……ここに自分が居てはいけない。

そんな雰囲気を感じたシャナメルは、エースに気付かれないように、部屋を後にした。
それに気付かないエースは、ルフィと昔話に花を咲かせていた。

「あァ、ルフィ。お前に紹介したい女が居るんだよ」
「オンナ???」
「おぅ。メルー、メールー」

呼んでも返事はない。

「あれ?さっきまで居たんだけど……何処行った?」

「メルー」と云って、寝室やトイレ、バスルームのドアを開けるが、誰も居ない。
嫌な予感が脳裏を過る。

「多分、気を使って出てった………」
「そうなのか?」
「わぁあっ!!メルー!!!」
「おい、エース!!」

慌てて飛び出すエースを追いかけるように、ルフィも部屋を飛び出す。

「メールー!!」
「直ぐに戻って来るって!!」
「バカ云え!!メルは直ぐに迷子になンだよ!!」

モビーディック号に乗って数ヵ月。
未だに迷子になる事を知っているエースは、不安で仕方がなかった。
それに伴い、顔に似合わず、爆乳なだけに、尚更、エースの不安を煽る。

「どんなオンナなんだ?」
「そりゃあ、もうすっげェかわいくて、かわいくてよ、背はちっちゃいし、肌は白いし、抱き締めたら折れそうなぐれェ華奢なクセに、抱き心地抜群だし、胸なんか顔に似合わずデケェ。ルフィもメルに逢ったら、ぜってェおれの気持ちが判る」
「ふぅん」

何分、ルフィも女っ気がないので、今一、エースの気持ちが判らない。

「だぁあッ!!兎に角、メルを探さねェと……」
「メルって名前なのか?」
「違う。名前は、シャナメル・オルフェウス。おれと親父だけがメルって呼んでる。他のヤツはシャナって呼ぶんだよ」
「他に特徴は無いのか?」
「サファイア・ブルーの髪にディープ・ブルーの瞳で、おれとお揃いのテンガロンハットを被ってる」
「判った」

どれだけシャナメルを探して、走っただろう。
宿先は全て探したが、シャナメルの姿はなかった。
シャナメルを探す先を、宿から外に変え、エースとルフィは走る。

[何処行ったンだよ!!メル!!]

今頃は、迷子になってエースを探してるかも知れない。
それか、がらの悪い奴等に"あーんな事"や、"こーんな事"を無理矢理されているかも知れない。
もし、されていたら、騒ぎ処じゃなくなる。
未遂だろうが、完遂だろうが、関係ない。
メルにちょっかい出す野郎は、消炭決定だ。
エースは、心の中で物騒な言葉を呟いた。
すると、

「エース!!」
「ンだよ!!」
「あれじゃねェか?」

ルフィが指差す場所を見ると。
見も知らぬ海賊達に囲まれて、困惑気味の表情を見せるシャナメルの姿が合った。

「メル!!!!」

常人とは思えないスピードで、シャナメルの所へ向かうエースを見て、ルフィは一言、

「エース、すっげェ」

と、呟いた。




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あきゅろす。
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