まぼろばの蒼月
006 Rー18
「メル。おれにしがみ付け」
『……え?』

涙で濡れた表情のまま、 シャナメルは小首を傾げた。

「タトゥーを消す程の火傷だからな。かなり痛てェ筈だ。おれは、メルだけが痛い思いをするのは、耐えらンねェ。メルの痛みを少しでも、分かち合えたら、って……その……」
『………バカッ』
「バカだからな、おれは」
『………でも、大好き』

シャナメルは、エースの胸元に顔を埋めた。

「爪で引っ掻いたりとか、噛みついても良いからな」
『………うん……』
「メル、愛してンぜ」

シャナメルの髪を退けさせ、エースはタトゥーの上に手を置くと、そのまま、炎を出現させた。

『ーーーーーーッ!!!!』

焼かれる臭いが充満する。
尋常じゃない痛みが身体を走る。
身体が痛みから逃げようとする。

「おれに噛み付け…!!!構わねェから!!」
『いやぁあああッ!!』

ギリッ、とエースの背中に爪を立てる。
そして、エースの肩口に噛み付いた。
ジワリ、と、口の中に鉄臭い味が充満する。
爪を立てた背中と噛み付いた肩口から、止めどなく血が流れる。
エースの表情が痛みに歪む。
けれど、それは一瞬の事。
シャナメルの方がこの痛みより、数倍、痛いのだ。

「メル……ッ!!」
『エース……くん……ありがと……』

どれぐらい、シャナメルの左肩を焼いただろうか。
エースは炎を消すと、シャナメルの傷を見る。
タトゥーがあった左肩は、その蔭もない。
ただ遺ったのは、焼け爛れた皮膚と、醜い火傷の跡。

「………蒼の魔術師は、ここで死んだ。おれが殺した。今、ここに居るのは、おれの"嫁"、シャナメル・オルフェウスだ」
『………エースくんの………お嫁さん……?』
「あァ、そうだ。メルはおれの嫁」
『………エースく…』

痛みから解放され、シャナメルは柔らかく笑うと、そのまま、瞳を閉じる。

「気を失ったか……」

エースは、やっと見つけたシャナメルを優しい眼差しで見つめた。

「おれも甘いなァ……」

シャナメルが泣いても嫌がっても、止める気はなかった。
あれだけ、ぶちギレていた筈なのに。

「でも、いっか」

何時もは"好きだよ"しか云ってくれない。
けれど、"大好き"と云ってくれたから、心の中を聞けただけ良し、としたようだ。

「けど…………。あの男……ゴール・D・ロジャーを知らねェなんてな………」

有名すぎる程の有名人だったのに、シャナメルは知らない、と云う。
そう云えば、親父すら知らなかったし……。
余りにも、世間の市場に疎い。
けれど、これからはずっと一緒だから、教えてやればいっか。
ニシシ、と笑って、シャナメルを見つめる。
きっと、この場所にマルコが居れば、「惚れた者負けって本当だよぃ」と、しみじみ呟いただろう。
はてさて。
これからどうするか。
左肩の火傷で、シャナメルは安静にしなくてはならない。
船医には殴られるだろうな、などと思いながらも、はた、と気付く。

「もしかして、暫く……ヤれねェ?」

怪我人相手に、出来る筈もなく。
エースはがっくし、と項垂れる。
けれど、シャナメルの傷が癒えたら、ヤりまくれば良いか。
シャナメルの意思なんてお構い無し。

[何日も我慢させられるんだから、たまには、おれだって、嫌って程、メルの全てを堪能したいし。で、おれがメルをどれだけ愛してっか、嫌って程、教えてやればいっか]

エースは、シャナメルの事情よりも、自分の性欲を最優先にしたようだ。

「さてと……。ここを引き払うか」

ここの大家を探して、解約して、さっさとモビーディックに戻りたいエース。

「あ、忘れてた」

メルにちょっかいを出したヤツには、きっちりと落とし前、つけなきゃな、等とも呟いた。

「………ずっと愛してンぜ?側に居るから、だから、メルもずっと、おれの側に居ろよ」

ちゅっ、と、汗ばんだ額に唇を落とした。








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あきゅろす。
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