まぼろばの蒼月
005 R-18
『嫌……ッ!!止めて!!エースくんッ!!』

嫌がるシャナメルの腕を一纏めにすると、Tシャツをたくし上げる。
豊満な乳房が、エースの前に現れる。
下着越しに、ムニムニ、と揉み解し、かぷっ、と、胸の谷間を唇で食む。

「柔らけェ」
『いやぁッ!!お願いぃ……止めて……こんなのやだァッ』

ボロボロ、と大粒の涙が溢れ落ちる。
シャナメルの口から溢れ落ちるのは、拒絶の言葉。
どれだけ愛していても、シャナメルは受け入れてくれない。
もしかして、"心変わり"をしたのだろうか。
それとも、おれが"あの男"の息子だから、嫌なのか?
初めてメルを抱いた時に云ってくれた言葉は、嘘だったのか?
誰でも良かったのか?
様々な妄想が、エースに牙を剥く。
拒絶の言葉を云い続けるシャナメルに、苛立ちが募る。

「……何で……ッ!!」
『エース……くん………?』

突如消えた愛撫に、はぁっ、と甘い吐息を漏らし、涙で滲んだ眼差しをエースに向ける。

「何でだよ!!何で、おれを拒む!?おれが嫌いになったのかよ!!あの時の言葉は……おれが好きだって云ったのは、嘘だったのかよ!!?」

シャナメルの肩口に顔を埋め、エースは表情を歪めた。
シャナメルを抱き締めている腕が震えている。

「それとも何か!!おれがあの男の……ゴール・D・ロジャーの息子だからか!!"鬼の子"だから…ッ、だから、おれを拒むのかよ!!」
『違うッ!!』
「何が違うんだよ!!おれが嫌いになったンだろ!!だから、おれを拒むンだろ!!」
『違う!!違う違う違うッ!!ゴール・D・ロジャーなんてヒト知らない!!それに、エースくんの事、嫌いになる筈ないじゃない…ッ!!』
「じゃあ、何で!!何で、おれの前から居なくなろうとすンだよ!!」

エースの悲痛なる叫びが、シャナメルの心に突き刺さる。

『ボクは、"死を招く"セイレーン族で、暗殺集団ヴァルハラのメンバーなんだよ!!エースくんを何時か死なせてしまう……ッ!!そんなの、絶対にやだ!!エースくんが居ない世界で生きてけないの!!それぐらい、エースくんが好きなの!!だから、だからッ』

ボロボロ、と涙を溢して、心の中にあった思いをぶちまける。

「おれは……ッ。メルがセイレーン族だとか、暗殺者だとか、そんなのどうだって良いンだよ!!おれはッ、おれは……!!」
『ーーーー……だったら………ボクを………殺してよ。エースくんの炎で、焼き殺してよ……ッ』

エースは驚愕に目を見開き、シャナメルを見る。
シャナメルは、抱き締めているエースの下から出ると、後を向き、左肩を見せた。
そこにあるのは、禍々しい蒼いバラと戯れる二匹の黒い蝶のタトゥー。
蒼いバラと黒い蝶に絡まる荊棘には、"No.2"と書かれている。
今まで、情交に及んでいたが、こんなタトゥーなんて見た事がなかった。
もしかしたら、シャナメルの魔術で隠していたのかも知れない。

『ーーーー……タトゥー(これ)がある限り、ボクはヴァルハラの蒼の魔術師のままなの。だからエースくんの炎で、焼いて』
「メル……?」
『"蒼の魔術師"のシャナメル・オルフェウスをエースくんの炎で焼き殺してよ……。ボクを、まだ、好きでいてくれるなら、愛してくれてるなら、エースくんの手で、ただの……普通の女の子のシャナメル・オルフェウスに戻してよ!!』

自分でも、無茶苦茶な事を云っているのは判っていた。
けれど、このタトゥーがある限り、ヴァルハラから逃げられない様な気がした。
何時まで経っても、束縛されたまま。
過去から解放されないまま、過去を引き摺ったまま、エースの側には居られない。
暗殺者であった自分を、あの頃の自分を、エースの手で殺して欲しい。
例え、タトゥーを焼き消したとしても、過去の自分がしでかした事は消えない。
けれど、消したかった、消してしまいたかった。

「…………判った」

重い沈黙の中、エースは口を開く。

『……ごめんなさい………支離滅裂で、無茶苦茶な事を云ってるのは判ってるの……。でも…、死ぬなら、殺されるなら、エースくんに殺されたい……』
「………あァ。おれが過去(それ)を殺してやるよ。で、ただの女のメルに戻してやるよ」

エースは、シャナメルの白い肌に、醜い火傷の跡を遺すのは嫌だった。
けれど、その火傷を遺すのはエース本人。
キス・マークなら何時かは消えてしまう。
だが、タトゥーを消す程の火傷なら、永遠に消えない。
この火傷がある限り、シャナメルはエースの事を忘れる事は出来ない。
永遠に遺る傷を、シャナメルの身体に刻む事が出来る優越感に、エースの身体が歓喜に震えた。








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