まぼろばの蒼月
001
『これで良し』

シャナメルは独り、島へと降り立った。
周囲は暗く、見えない。
こうするより他に、方法はなかった。
自分の所為で、"死を招いてしまう"。
それだけは避けなければならない。
死んで欲しくない。
だから、だから………。

『………ごめんなさい…エースくん……。こうするより、他に方法はないの………ッ』

シャナメルの言葉は、周囲に溶けて消えた。






◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇





「メールー……メールー」

ガチャリ、とドアを開けては、中を確かめる。
探している人物の姿はない。
やはり、昨日の事を怒っているのだろうか。

「どうしたよぃ」
「マルコ。メルを見なかったか?」
「シャナ?そういや見てねェよぃ。食堂か、洗濯室じゃねェ?」
「………入れ違いかな」

そう云って、エースは食堂、洗濯室を覗くが、シャナメルの姿はない。
部屋か、とも思い、シャナメルの部屋を覗くが、いない。

「どこ行ったンだよ……メルのヤツ」
「あ!!エース隊長」
「あ?」

シャナメルの部屋から出て来た時、声を掛けられる。

「探してたんですよ」
「おれに何か用?」
「シャナメルさんから、エース隊長宛に手紙を預かってます」
「メルから…?」

差し出された手紙には、見覚えがある字が並んでいた。

「メルから手紙、ねェ」

エースは手紙を受け取ると、手紙を読み始めた。
それには、こう書かれていた。


ポートガス・D・エース様

船が出港してから、1時間後に手紙を渡す様にお願いしました。
この手紙を読んでいる頃、ボクはこの船には居ません。
黙って出て行くボクを許して下さい。
ううん、恨んでくれても良い、憎んでくれても良い。
こうするより方法はなかった。
セイレーン族は"死を招く"。
何時か、ボクの所為で、皆を、エースくんを殺してしまう。
それだけはしたくない。
少しの間だったけど、幸せだった。
愛してくれて、ありがとう。
だから、ボクの事は忘れて下さい。
ボクの事は捜さないで下さい。

グシャリ、と、手紙が握り潰される。

「ふざけンなよ……!!」

何が"忘れて下さい"だ。
何が"捜さないで下さい"だ。
冗談じゃねェ。
やっとの思いで口説いて、やっとの思いで手に入れたのに、メルは、姿を消した。
セイレーン族は死を招く?
だから何だ?
メルは"おれの女"だろ?
黙って出て行ったメルにゃ、お仕置きしねェとな。
メルはおれの女だって事、いや、おれの嫁だって事を"自覚"させねェとな。
エースは、乾いた唇を、舌で潤す。
その表情は、草食獣を狩る肉食獣その物だった。






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