まぼろばの蒼月
009
街に降り立った二人は、色んな店を見て回った。
その間、エースは考えていた。
どうやってシャナメルを説得するか、頭をフル回転させて考える。
シャナメルがモビーディック号に乗ってから数ヶ月。
もう船員達と馴染んで居るのにも関わらず、ニューゲートの事は"白ひげさん"、である。
早く"お父さん"と呼んで欲しいニューゲートは、 エースにシャナメル説得にあたらせた。

[何が原因なんだ?]

うーん、と考えては見るものの、さっぱり判らない。

『エースくん?』
「え、あ、ゴメン」
『どうかした?』

きょとん、とした表情でエースを見るシャナメルに対し、「何でもねェ」と返事を返す。

『………帰ろっか』
「え!!」
『……ごめんなさい。無理矢理付き合わせちゃって……』
「いや、違うから!!」
『良いよ。帰ろ』
「メル、違うって!!!」

シャナメルは、エースの手を放すと、スタスタ、と歩き出す。
エースは小さく舌打ちをすると、シャナメルの後を追い掛ける。

「ったく……アイツら何やってんだ」
「確かにな」

二人の様子を見ていたイゾウとハルタは、率直な感想を述べた。




◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇




エースは帰ろうとするシャナメルを何とか引き留め、カフェに居た。
注文したドリンクの中で揺れる氷が、カラン、と音を立てる。

『………』
「………あのさ」
『うん…』
「……親父の事なんだけどさ………」

カラリ、と揺れる氷が、エースを映す。

「何でさ、親父の事、"白ひげさん"なんだ?」
『………』
「親父はさ、メルの事、"娘"って思ってるし、マルコ達は"妹"だって思ってるし……」
『………出来ないよ』
「え?」

シャナメルは、何処か哀しみに満ちた眼差しで、エースを見つめた。

『ボクのおとしゃんはおとしゃんだけだから……』
「………」
『………ごめんなさい…』
「いや、謝る事じゃねェし……。そっか…呼べねェか……」
『……うん…。白ひげさんを"お父さん"って呼んだら、おとしゃんを蔑ろにしてるような気がするの……』

自分を逃がそうとして、山賊に殺された父親。
そんな父親を忘れて、ニューゲートを"お父さん"と呼ぶ事は出来ない。

「……メルはおれの子供産むだろ」
『は?』
「男として、責任はちゃんと取るし……てか、メルはおれの"女"だし、別れる気なんてねェし……」
『エースくん?』
「おれの親父は親父だし、メルにとっても親父だし」
『もしもーし、エースくーん』
「子作りするか」
『なっ!!』

どこをどう繋げば、そんな話になるのだろうか。
ニューゲートを"お父さん"と呼ぶか、呼ばないか、の話をしていただけであって、子供を"作る"か"作らない"かの話ではなかった。

『何でそんな話になるの』
「そっちの方が手っ取り早い」
『そう云う問題じゃなくて!!』
「順序はすっ飛ばすけど、支障はないぞ」
『順序って!!』
「そりゃあ、結婚」
『はい?』
「結婚だよ、結婚。本当なら、結婚して、子供作って…と云うのが順序なんだろうけどよ、逆の場合もある訳だし」
『話、飛躍し過ぎッ』
「し過ぎてねェし。おれとしては、子供が欲しい」
『はい?』

次第に話が脱線していく。
シャナメルは痛み始めた頭を抱える。
どうして、そんな話になったのだろうか。
結婚、なんてまだ早すぎる。
それに"子供"と云うのも早すぎる。
話が飛躍し過ぎている。
と感じるシャナメル。
ところが、エースはエースで不安だった。
シャナメルに恋心を抱いているのは、自分だけではない。
船員達なら、牽制すれば何とかなる。
けれど、海軍ともなれば話は変わる。
どちらかが"死ぬ"しかない。
シャナメルを奪われたくない。
おれ以外の男の腕に抱かれる、なんて赦せない。
もし、そうなったらシャナメルを殺してしまう事が想像出来た。
それだけ、シャナメルに惚れてしまったのだ。




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