まぼろばの蒼月
003
「ほう………」
エースのコメカミがピクリ、と揺れる。
怒りの四角が増殖を始め、ポロポロ、とこぼれ落ちる。
『………』
ぎゅう、とエースにしがみ付く力が籠る。
いきなり抱き着かれ、逃げ延びる先々に、ソイツが姿を見せれば、誰だって恐怖を抱く。
「で、テメェらはメルを探す事もなく、逃げまくったと?」
「「………」」
「…おっ、珍しい。今日はシャナが甘えてんのかよぃ」
のほほん、とした声音で近付くのは、マルコ。
ちゃっかり、シャナメルの横に座ったと思えば。
『ふぎゃあああああっ!!』
「どぅわぁああああ!!!!」
バリバリバリ、とシャナメルの放電が始まり、マルコに直撃する。
「…………あー」
「………」
『ふぇえええ…』
シャナメルはぎゅう、と、エースにしがみ付くとぐずり始める。
はてさて。
困ったのはエースである。
シャナメルは、恐怖心の余り、問答無用に攻撃を仕掛けてしまう。
この状況をどう打破するか、エースの腕の見せ所でもあるが、今のシャナメルの状態は云い聞かせても無理な話。
「メル」
『怖いよぅ』
「メール。怖くねェよ。おれが居るだろ?」
「エース……おれの心配はなしかよぃ」
「大した放電じゃねェだろ」
ぽんぽん、と、シャナメルの背中を撫でながら、エースはちらり、とマルコを見る。
確かに放電自体は大した効果はないが、後に残る、痺れが容赦なくマルコに牙を剥いた。
「しかし、何があったんだよぃ。こんなシャナを見るのは初めてだ」
「………怖い想いをしたんだよ」
「ほぉ。"兄ちゃん"としては、きっちりと落とし前をつけねェとなァ」
「…シャナには護衛を付けてた筈だぜ?」
突如現れた、イゾウ。
そして、それに続くクリトルとビスタ。
「メルとハグレたんだとよ。詳しい事情は直に聞いてくれ。メル、移動すっから、一旦降りろ」
『………』
再び、渋々降りるシャナメルの手を握ると、自室へと向かう。
が、しかし。
『ふぎゃあああああっ!!!!』
「グォオオオ!!!!!」
「ありゃサッチだな」
すれ違う隊長や料理長にまで、放電するあたり、かなり怖かった事が判った。
「エースにゃ、"放電しねェ"な」
「シャナの"彼氏"だからな。それだけは、判ってンだろ」
「エースがシャナにメロメロ、と思ってたけど、何て事ねェ。シャナもエースにぞっこん惚れ込んだ、って事かよぃ」
「で、シャナメルに何があったのか、白状しろよ」
船員達は、「死亡フラグ成立だな」と心の中で呟いた。
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