まぼろばの蒼月
002
「兎に角、座ろ」

ぽんぽん、と、背中をあやすように撫でると、近くに合ったソファーに腰を下ろすように促す。
シャナメルは、渋々、エースから離れると、ソファーに腰を下ろす。
が、エースが座った瞬間、何を思ったのか、エースの膝の上にちゃっかりと座り直し、ぎゅっ、と、抱き着いてくる。

「???」

エースは再び、小首を傾げる。
一体、シャナメルに何が起こったのか、さっぱり判らない。

『浮気じゃないもんッ』
「浮気?」
『アイツが悪いもんッ!!ボク悪くないもん!!』
「メル。意味判んねェ」

エースが云う事も尤もで。
いきなり抱き着かれるわ、"浮気じゃない"だの、"アイツが悪い"だの云われてもさっぱり判らない。

「シャナメルさんッ」

そんな中、ダダダダダ…、と駆け付けて来るのは、別の隊の船員達。
申し訳なさそうに眉根を下げて、シャナメルを見つめる。

「無事に逃げ延びたンですね」
「ハグレたから心配してたンスよ」

船員達の言葉に、エースの眉がピクリ、と動く。

「メルに何があった?」
「へ?」
「エ、エ、エ、エース隊長ッ!!!」

シャナメルを心配していた船員達。
しかし、シャナメルが誰かに抱き着いている事迄は気にして居なかったようだ。

「嫌、あの、その……ッ!!」
「さっさと話せ」

にっこり、と、笑うエースの笑みが非常に怖かった。
話さなければ、間違いなく、"殺される"。

「じ……実はーーーー…」



◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇



「買い物はなかったンですか?」
『…ごめんなさい。折角、付き合って貰ったのに……』

どうやら、買い物に付き合って、と頼まれたのだろうか。
船員2人とシャナメルは、街に来ていた。
シャナメルは申し訳なさそうに眉根を下げた。

「エース隊長なら、何でも喜んでくれますよ」
『……でも、男の人の好みって良く判らないの』

どうやら、エースへのプレゼントを買いに来たようだが、思うような品物が見つからなかった。

「エース隊長が好きそうな下着を着けて、"プレゼントはボク"、とかの方が絶対に喜ぶ」
『………そっ、それはちょっと……』

かぁあ、と、頬を赤らめて呟く。
どうやら、初めての経験がシャナメルに"歯止め"をかけているようであった。

『……エースくんとね、その…お揃いが欲しいの』
「ーーーー…ペア、ですか。それは難しいと思いますよ」
『難しい???』
「エース隊長は"メラメラの実"の能力者ですから、熱伝導が高い金属は火傷の原因になりますからね」
『………じゃあ、マグカップ………は割りそうだよね…』

いざ、お揃いを買おうと思っても、どれを買ったら良いのか、判らない。

『……やっぱり、一緒に買った方が良いのかな……』
「サプライズにならないっスよ?」
『………どうしよう……』

考えながら歩いて居たのが間違いだった。
角を曲がろうとした瞬間、ドンッ、と誰かにぶつかってしまう。

『きゃっ』
「おおっと」
「「げっ、海軍ッ」」

シャナメルがぶつかった相手は海賊の天敵、海軍。

『ご、ごめんなさい』
「………」

シャナメルを視野に入れた海軍兵。
風体から視て、少将か中将クラスの実力者らしい事が窺えた。

「シャナメルさんッ!!」
「シャナメル!!」
『ふぇ?』
「………美しい……」

突如の言葉に、シャナメル達は呆然。
ぎゅっ、と、突然、シャナメルの身体が温もりに包まれる。

「あァ、この出逢いに感謝するよ」
『いっ…いやあぁあああッ!!』

シャナメルの身体が青白く光ったと思った瞬間、バリバリバリ、と放電する。

「グォオオオ!!!」
「シャナメルさんッ」

放電が終わった頃を見計らい、船員はシャナメルの腕を引き、その場を走り去る。

「シュエル中将!!」
「あの海賊どもを捕まえろ!!娘は私が捕まえる!!!」
「は!!」

そうして、鬼ごっこが始まった。
逃げ惑うシャナメル達。
それを追い掛ける海軍。
気が付けば、シャナメルと船員達はハグレてしまっていた。

『皆、何処ぉ……?』

ぐすっ、と涙ぐみながら歩く。

「シャナメル嬢」
『ふぎゃあああああっ!!!!』

逢いたくもないシュエルに、シャナメルは悲鳴を上げて、その場を走り去る。

「待ちたまえ!!マイハニー!!」
『いやあぁあああ!!エースくーーーんッ!!!!』

シャナメルは必死になって、シュエルから逃げ惑う。
身の危険を感じる。
シュエルに捕まってしまえば、また、元の生活に逆戻り。
そんなのは絶対に嫌だ。
必死になって逃げて、逃げて。
気が付けば、モビーディック号にまで駆け抜け、この状態になっていた。




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あきゅろす。
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