まぼろばの蒼月
010
カチャリ……と、ゆっくりとドアが開かれる。
キョロ、と辺りを見れば。
ソファーに座って、何かを考えているらしいエースの姿があった。

「……メル?」

気配を感じたのか、不意に振り向くエースに、ドキリ、と、胸が鳴る。
ゆっくりとエースに近付くと、ちょこん、とエースの横に座る。

「眠れねェのか?」
『………もう少しだけ……話をしたくて』
「そっか……」

二人の間に流れる沈黙。
お互いが何を話せば良いのか判らない。
けれど、このままで居られる筈はない。
何時かは"通る道"なのだ。
それが早いか、遅いか、だけの違い。
だが、それだけではない。
幾ら想いが通じ合っているとは云えど、所詮は人間。
気持ちが変わる時が来るかも知れないのだ。

「あのさ……」
『あのッ』

二人が同時に喋りだし、止まる。

「な、何だ?」
『……』
「嫌、あの……」

かぁあっ、と、二人が頬を染め、下を向く。
そうして再び、沈黙が走る。
もしも、ここにマルコ達が居たら、間違いなく「じれってェよぃ」と云われるのは間違いないだろう。

『……エースくん』

沈黙を破ったのはシャナメル。
頬を赤く染めて見つめるその様は、エースにとっては酷であった。
涙で潤んだ眼差し、紅潮した頬に、赤く濡れた唇。
白い肌は、月明かりを反射するかの如く、仄かに輝いて。
折角、"宥めた"と云うのに、再び火が点る。
その柔肌に牙を立てて、"おれのシルシ"を刻み、身体を蹂躙してェ。
そんな欲望に、ゴクリ、と固唾を飲む。

『……エースくん?』

急に黙り込んだエースに、不信感を抱いたのか、シャナメルは、エースの顔を覗き込んだ。

「わっ!!嫌、な、何でもないッ」

いきなり覗き込まれ、上擦った声音で答える。

[やらしー事考えてたなんて知られたら、完璧にドン引きされるッ!!]

エースも立派な男。
性欲は人並みに持ち合わせており、シャナメルをそう云う目で視ていると云っても過言では無い。
もしも、そう云う事を考えてたなんて知られたら、『…エースくん、最低!!』とか、『大嫌いッ』とか云われたら、立ち直れないかも知れない。

『エースくん、どうかした?』

小首を傾げて尋ねてくるシャナメルに、「何でもない」と答えるしかなかった。

『………』
「えと……メルの話って何だ?」

とにかく、話を変えないと行けない。
その流れを見て、判断するしかない、と思ったのか、シャナメルに尋ねてみた。

『え!!!あっ、あのッ』

まさか、急に聞かれるなんて思ってなかったシャナメルは、戸惑いの声をあげた。



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