まぼろばの蒼月
007
『これで判ったでしょ……ッ』

シャナメルの激白は、エースの心に深く突き刺さる。
想像を絶する様な"地獄"だったのだろう。
拐われては売られ、売られては拐われて、云う事を聞かなければ、暴力と云う恐怖を植え付けられ、それでも云う事を聞かなければ、快楽の為の道具として扱われる。
人を信じなくなっても仕方がない。

『……離して……ッ。ボクは、両親を殺したの…ッ。大罪を犯したの。ボクは穢れてるの!!そんなボクが赦される訳ないの!!』
「だったらッ!!」

泣きじゃくるシャナメルの身体を強く抱き締める。

「おれが赦してやるよ!!誰かに赦されてェなら、おれが赦してやる。世界中の奴等がメルを赦さねェって云っても、おれだけは赦してやる」

エースの言葉に、瞳を見開く。
真剣な眼差しは、逸らす事なく、シャナメルを射抜く。

「メルもおれも変わんねぇ。同じ"人殺し"だ」
『違うッ!!』
「何が違う?"依頼者"が居る事か?海賊(オレ)達だって、戦いを挑まれたら"皆殺し"だ。敵船(むこう)のお宝を奪うしな。何も変わらねェよ」
『…………』

何と云えば、良いんだろう。
泣き止ます言葉が出てこない。
ずっと独りぼっちだったシャナメル。
泣きたいのに泣けない。
誰かに居て欲しいのに、それすら云えない。
なら、その役をおれが引き受ける。
シャナメルに利用されてる、と、周囲に云われても構わない。
側に居てやりたい、寂しい時にはこうやって抱き締めてやって、泣きたい時には胸を貸してやって、甘えたい時には甘えさせてやりたい。
愛しさが込み上げる。

「……何でもーーー…」
『え……?』
「メルは何でも知ってる癖に、意外と世間知らずで、天然で、本当は寂しがり屋の癖に意地っ張りで泣き虫なーー…そんなメルが好きだ。愛してンぜ」

ポンポン、と、あやす様に背中を撫でてやれば。

『……………好きで居ても良いの…?』
「!!?」
『エースくんの事、好きで居ても良いの……?』

不安げに見つめるディープブルー。

「すげェ嬉しい」

耳元で優しく囁く。

『………』
「おれの事、好きって云ってみ?」

ニカッ、と、太陽の様に笑うエースに、

『エースくんの………事、………好きだよ』
「メル…。こっち向いて?」

俯くシャナメルに声をかけるものの、『………やだ』と云われてしまう。

「メール」
『………』
「メールちゃん」
『………』
「ったく……ほら、こっち向けって」

悪戯が成功した子供の様な笑みを浮かべながら、俯くシャナメルの顎を指で捉え、強引に上を向かせた。



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あきゅろす。
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