まぼろばの蒼月
006
仲間から【蒼の悪魔】と罵られ、恐れられる様になったシャナメル。
見える景色はモノクロで、赤だけが異様に見えるだけだった。
人を殺していく度、狂っていくのが判った。
眠れば、今まで殺していった人の夢を見る。
「死にたくない」とすがる手を振り払い、剣を突き立てる。
絶命の瞬間に見る、憎悪の眼差し。
もう、限界だった。
狂いたいのに狂えない。
逃げたいのに逃げられない。
このままいっその事、死んでしまおうか。
そんな中、舞い込んだ依頼。
最後のチャンスかも知れない。
このチャンスを逃せば、もう二度と、ここから逃げる事は出来ない。
シャナメルは、ゴクン、と固唾を飲んだ。

[どうか死ねます様に]

それだけを祈った。



◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇



「私が、私が、何をしたって云うのよ!!」

金切り声で叫ぶ女。
事情なんて知らない。
ただ、この女を殺せ、と依頼されただけ。
男女のもつれか、はたまた、保険金欲しさに身内を殺す、なんてざら。
ギラリ、と、刃が月明かりに光る。
まるで哀しんでいるかのよう。
それは、シャナメルに対して哀しんでいるのか、それとも美しい華のままで死ぬ女を憐れんでいるのか、それは月だけが知っていた。

「嫌…ッ!!死にたくない!!助けて!!何でも云う事を聞くからッ!!」

命乞いすら、耳には届かない。
死神が、後で笑っているのが見える。
二人の命を貰える嬉しさからか、その笑みは、どこか、嬉しそうだった。
無表情のままに、剣を降り下ろす。

「ギャアアアァアアア!!!」

女の身体から血飛沫が飛ぶ。
女の断末魔が、静かな闇に溶けると同時に、シャナメルは崖から飛び降りた。
見た目は暗い崖道で、"足を踏み外した"様に見せかけた。
暗い暗い海が大きく口を開く。

[このまま、死ねたら良い]

シャナメルの意識は、そこで途切れた。



◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇



ザザ……ン……ザザ……。
波が身体を撫でる。

『………ここは……』

身体中が悲鳴を上げる。
キョロ、と辺りを見回せば、見知らぬ浜、見知らぬ景色。

『………死ぬ事すら、赦されないのか…』

シャナメルは自嘲の笑みを浮かべた。
【ヴァルハラ】から刺客が来る。
それなら、ここで暮らそう。
両親が好きだった果実を植えてーー…。
死に方なんて、どうでも良い。
両親を殺した大罪人が死に方を選べる筈は無い。
何をされても抵抗しない。
それが罪の償い。
赦されない罪だけど、密かに夭逝させて下さい。




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あきゅろす。
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