まぼろばの蒼月
003
落札されても、シャナメルは歌う事はなかった。
歌おうとしても、声が出ない。
歌おうとしても、歌が判らない。

「歌え!!【蒼のカナリア】!!」

シャナメルを落札した貴族が叫ぶ。
しかし、シャナメルは歌わない。
慰み様に落札した【カナリア】は、歌を忘れ、声も忘れたのだ。

「歌わないの?」
「ああ。5億も出したのに、歌わないんだよ、お母様」
「歌わないなら、戦闘奴隷として、出しましょ」

クスクス、と笑う、中年の女。
香水のキツイ香りが、シャナメルを包む。

「戦闘奴隷として、売りましょう。歌わないカナリアには用はないのだから」

その言葉に、貴族達は頷いた。
要らない物なら売り飛ばしてしまおう。

「買取り屋を呼んでちょうだい」

高らかに笑う声が、響く。

「戦うのが嫌なら歌うのよ」
「歌え!!【蒼のカナリア】!!」

それでもシャナメルは歌わない。
話をしようともしない。
それがますます、貴族達の怒りを煽る。

「奥様」
「あぁ、来たのね。さっさとこの娘を買い取ってちょうだい」

貴族達の話し声すら届かない。
シャナメルは、全てを諦めた。
どれだけ叫んでも、誰も助けてはくれない。
待っているのは、暴力と云う名の恐怖。
歌っても歌わなくても、恐怖は訪れる。
成長すれば、きっと"性奴隷"として召し上げられるのは明らかだ。

[成長したくない]

このまま、死んでしまえば……。
そう願っても、死ぬ事すら出来ない。
誰かボクを殺して下さい。
この鳥籠から、全てから、解放してください。
シャナメルは、どうする事も出来ないままに、時は無情に流れていった。





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あきゅろす。
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