まぼろばの蒼月
002
果実の島を離れ、暗いテントの中で、シャナメルは大きな檻の中に閉じ込められていた。

「続いてーーー…」

進行役の男が叫ぶ。

「神の歌声と云われた"セイレーン族"の生き残り【蒼のカナリア】!!」

ガラガラガラ……と、鳥籠がスポットライトの下に動かされる。

「ヒッ!!」

貴族達は、シャナメルの姿を見るや否や、「ほぅ」、と感嘆の溜息を吐く。

「1億!!」
「2億5千万!!」
「3億!!」

我先に、シャナメルを競り下ろしていく。
欲望にギラ付く眼差しを、一心に受け、恐怖心が思考を支配する。

「5億8千万にて落札!!!」

自分の知らない間に、落札価格が決まり、売られていく。
これから自身がどうなっていくのか、幼いシャナメルには判らなかった。






◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇







「フフッ、【蒼のカナリア】…歌え!!」

ガシャンッ、と乱暴に、蹴られる鳥籠。
恐怖の余り、声が震える。
落札された先で強要されるのは歌う事。
歌わなければ、待っているのは痛み。
恐怖で、震える身体を抱き締める。
震える声で歌う毎日。
何時もの日常。
けれど、その日常すら、裏切る。
貴族宅に強盗が入り、再び、シャナメルは拐われ、人間屋に並ぶ。
絶望の日々は、シャナメルから表情を奪っていった。
そんな中ーーーーー…。

「良くやった」
「アンタも、怖いねェ」

[この声……!!]

忘れもしない。
両親を殺した山賊の声が聞こえる。

「あの娘は、貴族どもに高値で売れるからなァ」
「しかしよぅ、売った先から奪うなんてよ、考えもつかねェぜ」
「貴族どもはプライドが高いからな。強盗に入られました、なんて云えるかよ」
「確かにな。けどよ、あの娘を手に入れるのには苦労したぜ」
「あの女ァ、金をやるから娘を寄越せって云ったのに、この俺様に、水ぶっかけやがって……」
「ククク…だから、奪ったんだろ。さっさと娘を渡せば良かったのによ」

会話を聞いて、頭が真っ白になった。
両親が殺されたのは、自分の所為。
自分さえ居なければ殺されずに済んだのだ。

「神の歌声を持つ娘は、セイレーン族の中でも希だからな。さぁて、次は誰に売ろうかねェ」
「又、売れたら声かけてくれよ。拐ってきてやっからよ」

ハハハ、と盛大な笑い声が聞こえ、次第に小さくなって消えた。
シャナメルは檻の中で小さくなって震えていた。

[両親が殺されたのはボクの所為だ。ボクが両親を殺した]

シャナメルの思考は、両親が殺された過去へと飛ぶ。
ボクとおかしゃんを逃がす為に死んだ父親。
全てに絶望し、死を選んだ母親。
ボクが歌うから、歌ったから、死んだ。
全ての原因は、ボクにある。
真実を知らされたシャナメル。
その真実は、シャナメルには重すぎた。
真実はシャナメルから声を奪うのに、時間はかからなかった。




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あきゅろす。
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