まぼろばの蒼月
001
今から12年前ーーー…。
ボクは"果実の島"で暮らしていた。
果実の島は、どんなに時が掛かる果実でも、3ヶ月程で育ってしまうので、島中のあちらこちらに、様々な果実が植えられていた。
「じゃあ、メル。お歌を歌いましょうか」
「あいッ」
母親譲りのサファイアブルーの髪が、風にゆらゆら揺れる。
ディープブルーの瞳が、嬉しそうに笑う。
幸せだった。
けれど、それは長くは続かなかった。
「山賊だぁあっ!!」
「きゃぁああっ!!」
「金目の物は奪え!!女、子供は捕まえ、売り飛ばせ!!」
悲鳴と怒声が飛び交う。
「メル!!ルルッ!!」
「あなたッ!!」
「逃げろ!!逃げてくれ!!」
「……居たぜ!!上玉だぁあッ!!」
父親は、無謀にも山賊に襲いかかった。
山賊はニヤリ、と笑うと、父親に向かい、刀を降り下ろす。
ザシュ、と、紅蓮の赤が空に舞う。
倒れ込む様が、スローモーションの様に、写る。
倒れた父親は、ピクリ、とも動かない。
それでも、止め、と云わんばかりに、何度も何度も、刀を突き刺す。
「いやぁああッ!!」
「おとしゃんッ!!おとしゃん!!」
悲鳴が響く。
血生臭い臭いが辺りを包む。
「ったく……余計な手間暇をかけさせやがって……」
ニヤリ、と笑う山賊。
ガタガタ、と自然に身体が震える。
「あ……あ…」
「メルだけでも逃げて!!」
「おかしゃんッ!!」
ドンッ、と背中を押され、シャナメルはその場から走り出す。
「主人の仇……ッ!!」
「女の細腕で俺らとやろうってか」
母親は、山賊に向かって行く。
"娘"を守る為でもあり、夫の仇を取る為に。
だが、それは愚かな行為であった。
幾ら、守る為であっても、戦闘経験が乏しい母親と、戦闘経験が豊富な山賊。
レベルの違いは明らかだ。
「放してーーー!!」
「メルッ!!」
「ったく、すばしっこいガキだぜ、お頭」
山賊の一人が、シャナメルを肩に担いで、その場に現れる。
その山賊の腕には、噛み付かれた痕やら、引っ掛かれた痕が痛々しく残っていた。
「高値で売れるぜ」
「この女もな」
クツクツ笑う山賊に、母親は、手に持った短刀を自身の胸に突き立てた。
「この女ァッ!!」
「おかしゃんっ!!!」
もう、娘を助ける事も、夫の仇を取る事も出来ない。
山賊達の慰み物になるぐらいなら、死んだ方がマシだ。
絶望視した母親は、全てを諦めてしまった。
「チッ…!!」
ガッ、と、骸になった母親を蹴り上げる。
母親の瞳は濁り、何も写しては居なかった。
「おかしゃんッ!!おとしゃんッ!!」
「行くぜ」
シャナメルを肩に担いで、山賊達は島を離れる。
何も云わない両親は、濁った瞳で見送る。
「いやぁあああっ!!おとしゃんッ!!おかしゃんッ!!」
シャナメルの悲痛な叫び声だけが、静かになった島に響き渡った。
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