まぼろばの蒼月
006
シャナメルが欲しい、と云ったマグカップを求めて、雑貨屋へ来たものの、気に入ったマグカップに出会えず、エース達は、カフェで一休みする事となった。
エースは、オレンジジュース、シャナメルは、アイスティーを注文した。

『ごめんなさい。なんか、連れ回してしまって……』
「気にすんなよ。気に入った物がなかったんだから」

申し訳なさそうに、眉を下げる。
確かに、様々な雑貨屋巡りをしたが、シャナメルの様々な表情を見る事が出来たので、良しとするエース。
シャナメルはシャナメルで、別にマグカップが欲しい訳じゃなかった。
ただ、二人きりで出掛ける理由が欲しかっただけである。
何を買うのか、と問われたので、咄嗟に出た単語"マグカップ"を買うのだ、と嘘を吐いたのであった。

「お待たせしました〜」

コトン、と置かれていくグラス。
カラン、とグラスの中の氷が揺れる。

「次は何処に行くっかな」
『………船に戻る?』
「………」

モビーディック号に戻ってしまえば、シャナメルと二人きりになるのは到底難しい。
それどころか、キスすらも難しいのだから、本音を云うと戻りたくない。
まだ、シャナメルと一緒に居たい。
それに、念願の"キス"すらしていないのだ。

『……エースくん?』
「あ…嫌、何だ……その……」
『???』

兎に角、二人きりになる理由を探さないといけなくなってしまった。
何か、理由ーーーー…。

「まだ……どっかブラつかねェか?戻るのには早過ぎるし……」
『…………』
「あ、嫌、メルが戻りてェって云うならー………」
『良いよ』
「え?」

カラン、と氷をストローの先で突くシャナメルを見つめる。

『ボクは別に構わないよ?』
「そっか……」

エースの表情が微かに明るくなる。
まだ、一緒に居られる。
ふぅ、と、小さく息を吐くと、「何処が良いかな」と呟いた。

[………何かかわいい]

シャナメルはシャナメルで、エースを観察していた。
船の中にいるエースと、今、目の前にいるエース。
船の中では、"隊長"と呼ばれ、約100人ぐらいの船員達を抱えている。
やはり、敵襲や会議等で見せる顔と、今のエースの顔は違っていた。
そんな自身に、クスッ、と小さく笑った。

「ん?どうした?メル」
『ううん、何でも』
「???」

エースの頭にハテナが浮かぶものの、シャナメルはその質問には答えなかった。

「そろそろ、行くか」
『…ん』

ガタリ、と席を立ち、シャナメルに「外で待ってろ」と云い放ち、会計へと向かう。
シャナメルは云われた通りに、入口付近で、エースが来るのを待っていると、

「おねーさん、一人?」

不意に声を掛けられて、振り返る。
そこには、髪を金髪に染めた少年達が居た。

「おっ。美人じゃん。ねぇ、俺達と遊びに行かない?」

『連れが居るから』と云っても、彼等には伝わらない。
何度も「無視しないでさ、俺達と行こうよ」と誘われる。
どうやったら彼等に伝わるのか、考えていると、少年達の内の一人がシャナメルの腕を掴もうと、手を伸ばす。

「メル」
『あ…エースくん』

会計を終わらせたエースを見て、シャナメルはトトト、とエースに向かう。

「こいつら誰?」
『…知らない』

エースの登場を見るや否や、「ンだよ、彼氏持ちかよ」と呟き、去っていく。

「………ナンパか」
『ナンパ???』
「良いか?あーゆーのに付いて行くなよ」
『うん。でも、ボクの声、聞こえないみたいだった』

モビーディック号の船員達の中にも、シャナメルの言葉が通じない奴が居た。
その時は、何時も、シャナメルの声が聞こえる船員が通訳をかって出ていた。
どうして聞こえないのか、未だ、不明である。

「ま、良いんじゃねェ?」
『………うん…』

何処か納得が出来ないシャナメルであったが、聞こえないのはどうする事も出来ないので、諦める他はなかった。

「じゃあ、行くか」
『…ん』

再び、手を繋ぎ、ゆっくりと歩き出す。
まだまだ、時間はゆっくりある。
だから、もう少し、二人きりでいさせて欲しい二人であった。




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あきゅろす。
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