まぼろばの蒼月
003
エースは、親父の椅子が置かれている付近で、ゴロリ、と横たわっていた。
サァッ、と一陣の風が頬を撫でる。
考えても考えても、自分の考えが纏まらない。

「………」

ボーッとしながら、空を見上げる。
雲がゆったりと流れていく。

『……あ、いたいた』
「…!!」

ガバリ、と勢い良く起き上がる。
シャナメルは、風に舞う髪を押さえながら、エースに近づいて来る。

「メル…どうした?」
『えっと……お願いがあって……』

頬を微かに赤らめて、エースを見る。

ドキドキドキドキ………。

煩いぐらいの鼓動。

「お願い?」
『……うん…。次の島に着いたらね……その……お買い物に付き合って欲しいの』
「買い物?別に良いけど……」

すると、嬉しそうに笑う。

『じゃあ約束』
「あァ」

それだけを云うと、シャナメルは、パタパタパタ…と船内に戻って行った。

「………何だァ?」

買い物に付き合うだけなのに、そんなに嬉しいのか?
エースはシャナメルの態度に小首を傾げる。

「初々しいなァ」
「イゾウ……?それにマルコ…」

エースが座っている横に、どっかり、と腰を据えるイゾウとマルコ。

「ありゃ、デートの誘いだろうよ」
「は?」
「は、じゃねェよぃ。買い物なんて建前に決まってンだろ」
「!!!」
「シャナと楽しんで来いよ」
「他の奴等はおれ等で止めてやっから」

イゾウとマルコは、エースが心配だった。
エースがシャナメルに恋心を抱いているのは、皆知っていた。
けれど、当のシャナメルは気が付いていない。
『冗談ばっか』と云って、信じようとはしない。
その内、シャナメルを強姦するんじゃないか、と内心ヒヤヒヤしていた。
シャナメルも可愛いが、エースも可愛い"弟"。
二人には幸せになって欲しいのだ。
海賊は"悪"だの"ならず者の集まり"だのと、様々なレッテルが張られる。
そんな中に芽生えた"淡い恋"。

「チャンスだぜ?」
「チャンス?」
「シャナにちゃんと想いを伝えろ」
「………」
「頑張んなよぃ」

ヒラヒラ、と、手を振り、その場を後にする。

「チャンス……かァ…」

再び、ゴロリ、と寝転がる。
雲は静かに流れていく。
シャナメルと二人で出掛ける、なんてなかった。
今回のこのデートで、シャナメルとの関係を進ませたい。
エースは、次の島に早く着いてくれる事を祈った。




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あきゅろす。
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