まぼろばの蒼月
002
「きゃ〜!!」
「いや〜ん。かわいい〜」
シャナメルの事情を聞いて、ナース達ははしゃぐ。
「何とかして、二人きりにならないとね」
「あのバカ達の妨害を何とかしないと…」
ナース達の云う事ももっともで。
何せ、このモビーディック号では二人きりにはなれないのが事実。
シャナメルに対し、"淡い恋心"を抱いているのはエースだけではないのだ。
そして、エースの"淡い恋心"を成就させたい他の隊長達はついつい、"兄心"からか、二人のやり取りを覗いてしまい、"良い雰囲気を"ぶち壊してしまう。
そうなってしまえば、恥ずかしさからか、つい、冷たい態度をとってしまうのだ。
それに、シャナメルの過去が過去だけに、どうにかこの"恋"を成就させてやりたいと思う。
"愛される"事を"知らない"シャナメルと、"誰か"を"愛したい"エース。
「今度、上陸する島で買い物に付き合って貰うとか……」
「そうね、それが無難よね」
「シャナちゃん」
真剣な眼差しに、シャナメルはじぃ、とナース達を見る。
「良い?エース隊長を見つけたら、ちゃんとお願いするのよ」
『…お願い???』
「そ。お買い物に行くから付き合ってって。二人で出掛けていらっしゃいな」
「妨害はない………とは思う」
「食事に睡眠薬をブチ込む?」
「ダメよ。それは最終手段だから」
きゃいきゃい、と、シャナメルの意思を他所に、ナース達の妄想は膨らんでいく。
それを見ていたシャナメルは、
[そ、相談相手を間違えた……かも知れない]
と、心の中で呟いた。
「でもーーーー…」
『?』
「素直にならないとね」
『素直………』
「そうね。海賊稼業は因果な商売。明日どうなるか、判った物じゃないわ。特にエース隊長は高額の賞金首。賞金稼ぎも狙ってるから…」
その言葉が、シャナメルの心に突き刺さる。
この3ヶ月の間、海賊同士の戦争を見なかった訳じゃない。
その度に、エースはシャナメルを出来る範囲、安全な場所に避難させていた。
「耳を塞いで、ここでじっとしてろよ」と、何処か哀しげな眼差しに、シャナメルはきゅっ、と胸が締め付けられる。
阿鼻雑言がシャナメルの耳に届かない様にしながら、去っていく。
無事に帰って来て、そう願いながら見送る日々。
「エース隊長もエース隊長よね」
「まぁ仕方ないじゃない。海賊なんて男社会だから」
「兎に角、メルちゃん、頑張るのよ?」
『……うんッ』
シャナメルはこくん、と頷いた。
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