まぼろばの蒼月
001
エースは、無言のまま、何かを考えていた。
チラリ、と横目でシャナメルを見れば。
忙しそうに、バタバタバタ、と走り回っていた。

[キスしたのは一回だけ…か]

シャナメルの"呪"を解いた時に交わした時以外は全くない。
あれだけ「好きだ」、「愛してンぜ」と云っても『信じない』の一点張り。
流石のエースもヘコむ。

[だぁあっ!!判んねェ!!!]

嫌われてはいない…、とは思う。
けれど、シャナメルがモビーディック号に乗ってからはや、3ヶ月。
あれから進展は全くない。
エースも健全な青年。
好きな女が目の前に居て、"何も出来ない"と云うのは辛い。
夜な夜な夢に見る。
嫌がるシャナメルを無理矢理、この腕に抱いて、何度も欲望をシャナメルの胎内に注いだ所で目が覚める。
そして、夢で良かったと想いながらも、その内、現実に起こり得る事柄に、エースは頭を抱えていた。
傷付けたくない、けれど、欲しい。
二つの想いに揺れる。

「………ハァ…」

深い溜息を吐いて、頭を掻き毟る。
そんなエースの想いを他所に、シャナメルは柔らかい笑みを浮かべていた。

[何時かあの笑みをおれだけに向けてくれンのかよ……]

溢れ出る欲望。
それを制御出来ない自分が情けない。
シャナメルに出逢うまで、仲間達と酒を呑み、商売女を手当たり次第に抱いた。
云い寄る女も、ただの性欲処理に使い、あと腐れなく過ごして来た。
それなのに、今はどうだ。
女を抱きたくても、身体が欲望とは裏腹に反応しない。
口説こうとしても、シャナメルの顔が脳裏にちらつく。
そうなってしまえば、女を口説く心境にもなれず、酒を呑み干し、その場を後にする。

「おれも、ヤキが回ったか…」

等と呟く。
そんなエースを見ている人物が居るとは気が付いていなかった。




◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇




「メールちゃん」
「シャナちゃん」

シャナメルの手が空いた時を見計らい、ナース達がシャナメルに話し掛ける。

「ちょっと話があるの」
『………?』

シャナメルはナース達の後を追いかけた。
向かった先は、医務室。
そこには、他のナース達の姿があった。
シャナメルを興味深く見つめている。

「単刀直入に聞くわね」
「エース隊長と何処までいったの?」
『……は?』

その後言葉に、シャナメル唖然。
何を云われるのか、と内心ドキドキしていた。
しかし、全く異なる内容に、脱力してしまった。

『……何処までって云われても…』
「メルちゃん達見てるとねェ」
「じれったいのよ」

シャナメルは顔を真っ赤にしながら、下を向く。

[何処までって……キス……したけど、一度だけだし…]

"彼"が側を通ると、ドキドキする。
姿が見えないと、不安で、その姿を探してしまう自身に戸惑いを隠せない。
あんなに「好き」だの「愛してンぜ」だの云われ、最初は冗談だろう、からかっているんだろう、等と思っていた。
けれど、言葉を囁く表情が何時もの"彼"とは違っていて。
その度に、どうしたら良いのか判らなくなる。
この想いがいったい何なのか、シャナメルには判らない。

『あのね………相談があるの』

シャナメルは、男性経験豊富なナース達に、自分の想いを打ち明けた。
あの太陽の様な"笑み"を、もう一度見たいからーーーーー…。




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あきゅろす。
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