まぼろばの蒼月
006
楽しいおやつの時間も終わりを告げ、夕食ーーーー…第二次食堂戦争勃発。
あちらこちらで、「おかわり」だの「水」だのと云う声が飛び交う。
調理師見習いのシャナメルは、あちらこちらと走り回っていた。

「シャナちゃん、この後空いてる?」

幾ら、エースの「消炭にする」と云った脅し文句があったとしても、命知らずの輩が多い。

『繕い物があるから無理』
「明日やれば良いじゃん」

シャナメルの手を握ろうとした瞬間。
パカーン、と心地よい音が聞こえ、シャナメルをナンパしようとしていた船員が、その場に倒れ込む。
足元に転がるは、お盆。
そのお盆が船員に直撃したようだ。

「あ、悪りぃ。手が滑った」

お盆を投げつけたのはジョズ。
シャナメルは突然、何が起こったのか判らないのか、きょとん、とした表情で、倒れた船員を見ている。

[[[[[絶対にワザとだ!!!]]]]]

シャナメルにちょっかいを出せば、隊長達が黙っちゃいない。
ナンパも命懸けである。

「シャナメル、おかわり」
『ふぇ?あ、うん』

差し出された皿を持って厨房へと消えていくシャナメルを見送った後、

「シャナは"隊長専属"だよぃ」
「そうだね。おれ達の可愛い"妹"に、悪い虫がついてはいけないからね」
「だいたいエース、テメェがさっさと手付きにしねェから悪い」
「………クカーZZZ…」
「「「「「寝てやがる」」」」」
「何時もの事だろぃ」

それに関して、異議を唱える者もなく。
シャナメルは、本人の意向を問わず、何時の間にやら"隊長専属"になってしまいました。
そんな事とは露知らず。

『お待たせ………って、また寝てる…』

コトン、と、白米が乗った皿を置くと、寝ているエースを見て、シャナメルは小さく溜息を吐いた。

「クカー…」
『起きてー…ごはん無くなるよ』

ぽんぽん、と軽く肩を叩く。
しかし、目醒める気配はない。

「何時もの事だろぃ。気にすんなよぃ」
『………』

今日のメニューは、スープ系は一切用意されてはいない。
しかし、この突然的に寝てしまう癖を何とかしないといけない。
その内、スープに顔を突っ込んで"窒息死"なんて事になりかねない。
何か起きるきっかけーーー…。
シャナメルは、眉を寄せて考える。
"キス"は最終手段。
それ以外の方法はないのか。

『…そうだ』
「シャナメル?」

ガタガタガタ…と、自分の椅子を運ぶと、エースの横にちょこん、と座る。
そして、エースの耳元で、ゴニョゴニョ。

「マジかッ!!」
「「「「「起きたよ(ぃ)」」」」」
「シャナ。何て云ったんだ?」
『起きたらごはん食べさせてあげる』
「「「「「………」」」」」
「メルー」
『ほら、あーん』

パクッ、と差し出された肉を頬張る。

「………単純…」
「………アホらし」
「おれもカワイイ彼女作るっかねぇ」

各々の感想を述べると、食事を再開。
それを見ていた料理長は。

「仕事になんねェよ」

と、呟いた。

そんな日常が、ある日を境に変わるなんて、この時の彼らは予想していなかった。





[*前へ]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!