まぼろばの蒼月
002
そんな心配を他所に、シャナメルはエースの部屋のドアを叩く。
しかし、反応はない。

『寝てるのカナ?』

カチャリ、とドアノブを回せば開くドア。
どうやら、鍵は掛かっていない。

『入るよー』

ひょこっと顔を覗かせれば。
薄暗い部屋。
「クカー…」と云う寝息が聞こえる。
そっと、足音を忍ばせて、エースのベッドに近付く。
普段は、「好きだ」の、「愛してンぜ」だのと、シャナメルに囁く表情とは違い、無邪気な寝顔。

『……何かかわいい……』

ぷにっ、と指先で頬を突いてみる。

「ん……ッ」

微かに眉を寄せるものの、規律正しい寝息に変わる。

『あ……起こしに来たんだった』

もっといたずらをしたかったが、料理長に頼まれた事を思い出したのか、ゆさゆさ、と、エースの身体を揺さぶる。

『起きてーーー、朝御飯だよーーー』
「…煩ェな……」
『なくなっちゃうよー』

がばり、と、シーツを頭の上まで被ると、再び、「クカー」と寝息を立ててしまう。
はてさて、どうやって起こそうか。
"電撃"で起こすのも良いのだが、火事になってしまう。
かと云って諦めてしまうのは嫌だ。
そんな時、料理長から教わった言葉を思い出した。

『………ホントに起きるのカナ』

試してみる価値はあるだろう。
シャナメルは、エースの耳元に唇を寄せ、囁いた。

『今すぐ起きたら、ご褒美にボクからキス』

その言葉を聞いた瞬間、がばり、と、勢い良く目覚めるエースに、シャナメルは一言、

『………起きたよ………』

と呟いた。



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あきゅろす。
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