まぼろばの蒼月
009
ニューゲートの召集により、食堂に集まったエースを除く隊長達は、マルコから大まかな話を聞いていた。

「と、云う事だよぃ」
「エースがねェ……」
「春到来ってやつだな」

事情を聞けば、哀れで不憫な娘。
一番、親の愛情が欲しい時期なのに、愛される事はなかった。
売られては、棄てられての繰り返し。
人間不信に陥っても仕方がない。

「けれど、それとこれとは話が別だろ」
「………見捨てろって云うのかよ!!」
「同情で乗せるのは違うだろうが!!」
「確かに、同情で乗せるのは違う。ケド、エースがその娘に惚れちまったんだろうがよ!!引き離したらどうなるよ!!」
「出逢いがあれば別れが来る。それを経験して来た筈だぜ」
「マルコ、お前はどう思ってんだよ」
「おれはシャナメルを乗せた方が良いと思ってるよぃ。エースが"男"として、"海賊"として"成長出来る"しな」
「………」
「アイツは何処か自棄になる節がある。もし、シャナメルが側に居たら、変わる…と?」
「あァ、そうだよぃ。親父も期待してるんだよぃ」
「確かに、"守るべきもの"があれば変わる。おれは賛成だな」
「おれもだ。ようやく、妹が出来るぞ〜」

ここで、シャナメルの同船についての意見が纏められた。



◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇



ふわり、と、風が頬を撫でる。
月が重い雲から顔を覗かせ、優しい光を放つ。
シャナメルは、エースの部屋から抜け出し、誰にも悟られない様、甲板に姿を見せていた。

[彼はどうして、ボクに関わろうとするのだろうか………]

物事をまっすぐに捕らえて、太陽のように笑う人。

[本当の事を知ってしまえば、彼はボクから離れる……]

抱き締められた時の腕の強さ、体温。
人間屋に売られた時から、他人に抱き締められると云う事などなかった。
最初に求められていたのは、【歌う事】だった。
歌わなければ、容赦ない痛みに苦しんだ。
けれど、次第にーーーー…歌を歌えなくなった。

"歌わぬカナリアには用はない"

そう云って、"棄てられた"のだ。
何度も何度も、繰り返し、"棄てられては売られ"、"売られては棄てられる"日々。

"歌わぬのなら、戦闘奴隷としてーーー…"

そうして【飼い主】達は、【戦闘奴隷】として、シャナメルを扱った。
【戦い】を見ては楽しみ、負ければ、痛みに震えるばかりか、簡単に棄てられる。

"戦うのが嫌なら歌え、【蒼いカナリア】"

その言葉が呪いの言葉。

"歌わねば、死ぬまで、【戦闘奴隷】のままよ"

【戦い】の中で覚醒していく力。
こんな力なんて目覚めて欲しくなかった。

[きっと、本当の事を知ったらーーー…]

そんな事を思った瞬間、自嘲の笑みを浮かべた。

"失うもの"なんて、"何もない"じゃないか。
何に怯えている?
怯える必要なんて何処にもない。
今まで一人でやって来た。
それはこれからも変わらない。

[ひとりぼっちは慣れてるから]

自分自身に云い聞かせる様に呟く言葉。
シャナメルは、月の光から逃れるように、顔を隠した。



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