まぼろばの蒼月
008
「幾ら、呪いが解けた、としても……シャナメル・オルフェウスの心の闇は深いですよ?」
「……だから、諦めろってか?」

アスカの言葉に、ククク、と喉の奥で笑うエースの表情は、今までとは何処か違っていた。

「諦めねェよ。アイツはおれの"オンナ"だぜ?闇が深い?上等。おれの炎で照らしてやるよ」
「グララララララ!!!良く云った!!それでこそ、おれの息子だ!!明日は宴………」
「シャナメルの部屋をどうすんだよぃ」

マルコの言葉に、ピタリ、と声が止まった。

「親父…考えてなかったな」
「メルはおれと一緒に決まってンだろ」
「バカ云うんじゃねェよぃ。シャナメルを飢えた狼の前に差し出す訳ねェだろうが」
「……グララララララ…おれの横に置けば良いだろ」

ある意味、安全なのはニューゲートの隣の部屋。
しかし、物置になっているので、片付けるには時間が掛かる。
それに伴い、シャナメルの必需品をも用意しなくてはならないが、果たして、この街の人間はシャナメルに物を売っていたのかどうかも怪しい。

「ベッドは空いてるのがあったからそれを使うとして、問題は服だ」
「次の島で買えば良いじゃん。それまではおれの服を貸すし」
「……………」
「独占欲の塊かよぃ」
「煩ェよ。今回はナース達の服を借りたけど、他の野郎の着た服なんざ着せたくねェ」
「……シャナメルも大変な奴に惚れられちまったなァ」

マルコは盛大な溜息を吐き、ニューゲート達は、二人のやり取りを微笑ましく見つめていた。

「………問題は、他の奴らだな」
「………どう云う意味だよ」
「幾ら親父やおれらが認めても、他の奴らがどう思うか、だ。"同情"で船に乗せるのはお門違い、と云う奴も居る。シャナメルよりもエース、お前が耐えられるかよぃ?」

その言葉に、エースは黙り込んだ。
耐えられる筈なんてなかった。
ずっと、傷付いて来たシャナメル。
ここに来ても尚、傷つかなくてはならないのが、辛い。
"隊長格"なら兎も角、他の船員達は、シャナメルに対し、嫉妬に充ちた眼差しと中傷を与えるのは目に見えていた。

「耐えられるだ?無理だな。メルを傷付ける奴は誰であれーーーー…殺す」
「………やっぱりか」
「グララララララ、なるようになれ、だ。ここで四の五の云った所で始まらねェ。メルの着替えが終わったら、食堂に連れて来い」
「親父?」
「メルをおれの娘として紹介する」
「断れねェようにする訳か。流石親父」
「………この親ありて、この子ありだよぃ」

逸脱してしまった親子愛に、マルコは「シャナメル、諦めろ」と、心の中で呟いた。








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