まぼろばの蒼月
005
モビーディック号を飛び出したシャナメルを追いかけて､エースはひたすら､走り続けた｡
｢だーッ!!すばしっこいッ!!｣
シャナメルを見失わないようにするのが精一杯｡
ここで見失ったら､シャナメルには永遠に逢えないような気がした｡
[ぜってェに捕まえる!!捕まえてーーー…]
エースの頭の中に浮かぶのは､犯罪者が裸足で逃げ出しそうな事だらけ｡
折角､奪った大事な"お宝"｡
そのお宝は､自分の意思とは裏腹に､中々､云う事を聞かない｡
"おれの物だ"と､"お前が欲しい"と､告げたにも関わらず､逃げてしまった｡
笑って赦せる程､人間出来てはいない｡
シャナメルを捕まえて､"おれの物"と云う所有印を刻んで､そのディープ･ブルーの瞳にはおれしか写らないように､おれの事しか考えない様に閉じ込めてしまおうかーーーー…｡
そこで､はた､と思考が止まった｡
[おれ､何考えてンだ？]
はっきりと云えば､幼女趣味ではない｡
幼女よりも､ナイスバディなお姉様方の方が良い｡
けれど､シャナメルを捕まえた後の事を考えたら､出て来るのは欲望ばかり｡
[ーーーーー…まさか!!あり得ねェ]
ブンブン､と､頭を振り､欲望を否定する｡
｢あ………｣
辺りを窺ってもあの娘の姿はない｡
気が付いた時には遅かった｡
｢やっちまった…見失っちまったか｣
トレードマークのテンガロハットをかぶり直すと､ふぅ､と息を吐く｡
シャナメルが行きそうな場所｡
ここらは､キアの息が掛かっているだろうから自然と却下｡
｢やっぱ､あっこか……｣
思い当たる節があるのだろう｡
エースは自然と足を向けた｡
今度は逃がさねェ｡
海賊は､１度手にしたお宝は誰にも渡さねェンだよ｡
クスクス笑いながら､ぺろり､と､乾いた唇を舌で潤す｡
その眼差しは､獰猛な肉食獣そのものであった｡
◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇
｢………ビンゴ､だな｣
燃え尽きた家の前に､ちょこん､と座るシャナメルの姿があった｡
ずっと､その場に座り込み､燃え尽きた家だった物を見ている｡
｢鬼ごっこはもう終わりか？｣
ビクッ､と､肩を強張らせながら振り返る｡
『何で…ッ』
｢メルの居場所なら直ぐに判る｣
『……ッ!!』
逃げようとするシャナメルを簡単に捕まえ､腕の中の"檻"に閉じ込めた｡
『離して!!』
｢嫌だ｣
『離して!!』
ジタバタ､ともがくシャナメル｡
けれど､ビクともしない｡
｢おれの話も聞けよ!!｣
『嫌だッ!!聞きたくない!!!』
｢メル!!｣
『嫌だッ!!』
次第に苛つきが増して来る｡
どうして､おれを見ない？
おれと､"誰か"を重ねて見てるのか？
ンなの､認めねェ｡
シャナメルは……､メルはおれのだ｡
おれだけの､"オンナ"だ｡
誰にも渡さねェ｡
見えない嫉妬が､エースを襲う｡
フツフツ､と沸き起こる怒り｡
｢メルッ!!良いから､おれの話も聞けよ!!｣
『嫌ッ!!聞きたくないって云ってる!!何で､何で､ボクに関わろうとするの!!ボクの事はほおっておいてよっ!!』
｢ほおっておけるかよ!!おれは……ッ!!｣
エースの真剣な眼差しが､シャナメルを見つめた｡
｢おれはーーーーー……メルが､好きだ｣
その言葉に､沈黙が走った｡
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