まぼろばの蒼月
003
バサッ、と、シャナメルの背後から、4枚の羽根が姿を見せる。
合計6枚の羽根がシャナメルを上空へと運ぶ。

「メルッ!!!」
「エース!!」

シャナメルを追いかけようと、必死になって腕を伸ばす。
けれど、シャナメルには届かない。

『♪』

ピタリ、と、シャナメルが止まる。
澄んだ歌声が響く。
先程までの殺気が嘘の様に、消えていく。

「グラララララ!!唄が終わる前に、この海域から離脱する!!」
「おぅ!!」

ニューゲートの号令に、奇跡的にも軽傷だった船員達が、行動を開始する。
テンタクルスの動きが止まっている今、無駄に戦うよりも、さっさと離脱して、負傷者や壊れた船を直さないと、元の木阿弥だ。
バタバタ、と、船内から包帯や薬を持って治療に当たる船医達を見つめながら、マルコとエース、そしてニューゲートは、上空にて唄うシャナメルを見上げていた。

「親父……、シャナは一体……?」
「おれも初めて目の当たりにするが……。セイレーン族、しかも、純血種にしかねェ能力だ」
「純血種にしかない?」
「海域から離脱し、隠港に着いたら、緊急会議を開く。それまでに、全てを終わらせておけ。グラララララ!!」

ニューゲートはそれだけを云い残し、船内へと入っていく。

「エース隊長。手当てを」
「おれは良いから、他の奴らを先にしてやってくれ」

エースは、それだけを云うと、シャナメルを見上げていた。

[羽根があるから、天女じゃねェけど、何か天女みてェ]

淡く、蒼い光を身に纏うその姿は、まるで、天女の様だ。
その歌声も、澄み切った、海の中を泳いでいるみたいだ。
シャナメルから舞い落ちる淡い光。
指先が、光に触れる。
柔らかく光るそれは、溶け込む様に消える。
まるで、儚いシャボン玉のように。
どれぐらい見上げていただろうか。
シャナメルの唄が終わると同時に、ぱしん、と小さな破裂音が聞こえた。

「メルッ!!!」
「シャナメル!!!」

シャナメルを上空に押し上げた羽根が消え失せ、重力に逆らう事なく、シャナメルの身体は急激に落下する。
エースは、シャナメルの落下地点だろうと思われる場所に向かって駆け出す。

[間に合ってくれ!!!]

もし間に合わなければ、シャナメルは激突死。
それだけはしたくない。
助けられた筈なのに、助けられない、なんて、死んでも嫌だ。

ーーーーーー……ドサッ!

エースの腕の中に落下したシャナメルは、うっすらと瞼を開く。

『エースくん……』
「「メル(ちゃん)!!」」
「シャナメル!!」
『無事……だったんだ……良かった……』

柔らかく微笑むと、再び、瞼を閉じた。

「メルッ」
「ーーーー……能力を使い果たしたンだろ。休ませてやれ」
「……あァ。後は任せる」
「よぃ」

シャナメルを腕に抱いたまま、エースは部屋へと戻っていく。
それを見送る隊長達であった。





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あきゅろす。
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